日常会話の内容が商談成功のカギを握る
今回は「決裁者の判断基準をどう捉えるか」についてお伝えします。
決裁者にまだ会えていない状態で、稟議にあがる提案書を作らざるを得ないときがあります。多くの営業は担当者に「決裁者が重視されるポイントはなんですか?」と聞きます。しかし、それだけでは一歩足りずに失注しやすいです。なぜなら、担当者には決裁者の頭の中が見えていないからです。本当に聞くべきことは「決裁者との日常会話の内容」です。
まず、決裁者と担当者とでは視座・視野・視点が違います。担当者には「決裁者の頭の中の全体像」は見えません。そのため、営業が担当者に対して間接的に決裁者の判断基準をヒアリングしても、その一部しか把握できません。加えて、決裁者の判断基準は「感覚」の部分もあります。そこまでを間接的に聞き出すのは困難です。
弊社が営業におすすめするのは「決裁者が現場に対してどんなことを日常的に言っているか」という「決裁者の口癖」を聞くことです。そして、提案しようとしている件に関係なくてもいいので「決裁者が全体に送ったメール」や「決裁者が全体MTGで発信した資料」などを可能な限り見せてもらうお願いをすることが重要です。
多くの営業が提案の山場になってから「決裁者が重視する判断基準」を聞こうとします。しかし、それでは遅い上に、断片的な情報しか得られません。 本当のヒントは「決裁者の日常」にあります。決裁者がいつも何を言っていて、何が口癖で、何にイライラしていて、どんな資料で情報を発信していて、どんなメールを書いてるのか、といったことが鍵です。
事実の積み重ねで「決裁者の日常」を垣間見よう
何よりも「決裁者の日常」は事実を追うべきです。人の頭の中(=判断基準)は目に見えませんが、台詞は耳で聴き取れますし、メールは文字が残り、資料もファイルが残ります。 そこから「決裁者が何にこだわっているのか」「決裁者が何にイライラしているのか」を掴みましょう。そうすれば担当者のバイアスもかかりません。
担当者に「決裁者の判断基準」を間接的に聞いただけで提案をするのは、バイアスに左右されるリスクがあります。 多くの営業が「担当者の個人的な意見」を「会社のビジョンや課題」と勘違いし、浅い提案を出してしまっています。
「決裁者の判断基準はなんですか?」と聞いて得られる情報は、あくまでも1つの側面でしかありません。本当の判断基準は「決裁者のイライラやストレス」に眠っています。それは、ずっと解決されずに残っていることや、いつも繰り返し言っているけれども理解されないことなどです。「なぜ皆わかってくれないのか?」というところに決裁者の「琴線」があります。
抽象的な回答は、鵜呑みにするのは避けよう
たとえ担当者が「決裁者は費用対効果を重視する」と言っても、その情報は抽象的すぎて、具体的な行動指針にはならない場合が多いです。
このように抽象的な回答をもらったとしても、それをそのまま受け入れるのは危険です。例えば、「決裁者は費用対効果に厳しい」という抽象度の情報では、具体的にどのような提案内容にすればいいのかがわかりません。
この問題の根本は情報の「粒度」にあります。すなわち、「その情報がどれだけ具体的か」ということです。決裁者が何を考えているのか、その詳細をしっかりと掴む必要があります。
要するに、決裁者の判断基準を理解するには、担当者の意見や抽象的な情報に頼らず、具体的で詳細な情報を集めることが求められるのです。この点を押さえることで、より効果的な資料作成やプレゼンテーションが可能になります。
情報が手に入らないときはどうしたらよいのか
そのヒントは、決裁者の日常的なコミュニケーションに隠されています。ただし、それを探るのが難しいケースもあります。例えば、決裁者と直接やりとりができない場合です。
たとえば、お客様が社内で使う資料を作成していたり、指示を出しているメールがあれば、それを見ることで決裁者の考えや重視しているポイントが見えてきます。しかし、問題はそのような情報が簡単に手に入らないことです。お客様が自発的に共有してくれるわけではありません。
多くの営業は、この点で困難を感じています。それでは、どう対処すればよいのでしょうか。
答えは、「自分が所属する企業内での情報収集」にあります。
特に、若手の営業は決裁者や経営者を苦手とする傾向がありますが、自社内であれば決裁者や経営者がどのようなことを考えているのかに関する情報は比較的簡単に集められます。まずは、自社の決裁者や役員がどのように物事を考え、意思決定をしているのかを理解することが重要です。
「ベンチャー企業と大企業の決裁者では、視点が大きく異なるのではないか」というご意見をいただくこともあります。確かに違いは存在しますが、経営や意思決定に関わる基本的なプロセスには共通点があります。
それを理解した上で、お客様の決裁者がどのように考えているのかを把握する方が、単に頭の中で想像をめぐらせるよりも効果的です。
「共通点」に気付ける感度を高めよう
注目すべき共通点に気づき、その視点から考えを広げることで、営業としてのアンテナは次第に磨かれていきます。
一見異なるものでも、その背後に共通点があるという考え方を「アナロジー」といいます。例えば、自分の会社とお客様の会社の規模が違っても、経営の本質的なところでは共通する要素が存在するはずです。この「共通点」に気づける感度を高めることが大切です。
「それでも経営者が何を考えているのかよくわからない」と感じる方もいるでしょう。そのような場合は、経営者との交流を増やすのがおすすめです。親しみやすい飲食店の店長やオーナーと仲良くなるなど、身近な場所から始めてみましょう。
店舗運営には多くの営業が飛び込んできます。そのため、店長やオーナーは「お金の使い道」について、非常によく考えています。このような人々と親しくなることで、自然と経営者の視点に対する理解が深まり、自分自身の営業スキルも磨かれるでしょう。