「提案書」ではなく「共同企画書」を作ろう
今回はお客様を巻き込み、二人三脚で企画を進めるやり方についてお伝えします。
お客様の熱量を上げるのが上手い営業は「お客様がこちらの提案内容をジャッジする」のではなく「お客様と営業が一緒に考え、共に汗をかく」という構図を作っています。「提案書」というより「共同企画書」を作るイメージです。この構造を作るための鍵は、お客様に良いレベル感で「お願いごと」をすることです。
ともに汗をかくためにはどうすべき?
お客様から一方的に「ご提案下さい。こちらが判断します」となるのは以下の3パターンです。
- ①既にお客様が考え尽くしていて、判断基準も明確になっている
- ②お客様はまだ深くは考えていないが、予算は取ろうと思っているので、提案を見てから考えようと思っている
- ③そもそもあまり考える気がなく、何となく言っている
「①既にお客様が考え尽くしていて、判断基準も明確」というケースは、実際にはあまりありません。多くは②か③です。しかし、この状態で提案を出しても、あまり良いことは起こりません。そこで、「お客様がこのテーマについて考えたくなる動機づけ」と「お客様が何を考えるべきかの定義」が必要になります。
お客様の「前向きなサイン」を見逃すな
動機づけや定義を「商談」の場でやろうとすると、お客様は無意識に「判断するモード」になりやすいです。そこでおすすめなのが「10分電話商談」です。お客様とパーソナルな会話をしながら、お客様の感触や考えていることを把握し、考えていただく問いかけを投げます。そして、会話の内容をメモしてすぐに送ります。
この「10分電話商談→すぐにメモの送付」は、お客様へのギブになります。お客様も思考が整理され、考えるモードになりやすいです。まずは10分電話商談を繰り返し、お客様の温度感を測りましょう。このキャッチボールに「前向きなサイン」が出てきたら、こちらからちょっとしたお願い事をするチャンスが生まれます。
「前向きなサイン」とは、例えば以下のようなものです。
お客様の前向きなサイン
- こちらからのメモの送付メールに対して、お客様から丁寧なお礼の返信がくる
- 「10分電話商談」のつもりが、電話が盛り上がり、15〜20分ぐらいになる
- 「10分電話商談」の会話で、お客様が積極的に「自分はこう思う」「社内でこれをこんな風に進めたい」という意見を口にされる
前向きなサインが出てきたら「良い塩梅でできるお願いごと」をするチャンスです。ここで、重たすぎるお願いをしないように注意しましょう。イメージとしては「5〜10分でできること」です。例えば、以下のようなものです。
お願いごとの具体例
- この内容を上司の方に転送して頂けませんか?
- 上司の方に、本件での社内相談をカレンダーで調整頂けませんか?
ちょっとしたお願いごとをしたら、「実際に上司の方に感触を聞いてみて頂いて、どんな感じだったかを教えて頂けませんか」というように、次の10分電話商談の約束をしましょう。このようにして「一緒に考え、進める」雰囲気になってきたら、資料作成についても(10分ではなく30〜60分のアポイントをとって)一緒に進めるようにしましょう。
「お願い営業」に陥らないために
当社はよく「お客様へ送る資料は、正式稟議にあがる前は表紙を付けない方がよいです」とおすすめしています。その理由は、共に企画し資料を作る段階で「さあ、これが当社からの提案ですよ」という雰囲気にならないようにするためです。資料もお客様のコメントや頂いた情報を盛り込み、あえて「パッチワーク」でたたき台を作るようにします。
望ましくない営業の仕方としてよくあるのが「買ってください、お願いします」とお願いばかりする「お願い営業」です。「お願い営業」は交渉力が弱まり、受注率も下がる状況を生んでしまうことが多いです。お願いばかりしていると、自らが劣勢に立たされるため、ちょっとしたことでお客様の検討が止まってしまうケースがあります。こちらが譲歩するしかなくなると、営業は消耗戦になってしまいます。
このような消耗戦は営業にとってもお客様にとっても、悪い影響を及ぼします。営業とお客様が共にハッピーな状態で取引が続くのが理想です。
その点で興味深い書籍はナシーム・ニコラス・タレブ氏の著作『身銭を切れ 「リスクを生きる」人だけが知っている人生の本質』(ダイヤモンド社)です。この本では「リスクを共有するコンサルタントのアドバイスが信頼に値する」と言っています。つまり、「失敗した場合に損失を負う覚悟のあるコンサルタントの言葉を信じるべきだ」というのです。これは、コンサルティング会社である当社にとって非常に身につまされる言葉です。
困ったときは「もしもシリーズ」で考えよう
理想的なのは、お客様に「上手くいかなかったら、責任を取ってもらえるんですか?」と言われたときに、責任を取れる状態を作ることです。
しかし、現実的には会社で働いてる1人の組織人がお客様のことまで責任を負えないでしょう。営業はお客様の会社の社長ではありませんし、従業員でもありません。
そこで営業として何が重要かというと、「もしもシリーズ」で考えることです。
「もし自分がお客様の会社に転職して、そのお客様の立場で仕事をすることになったとき、これで果たして成果をしっかり出せるだろうか」と考えることです。それは「自分が相手の立場になって、とことん考える」ということです。
営業は想像力が必要な仕事です。お客様に対しての想像力をふんだんに発揮して、かつお客様に健全なお願い事をするというのは、言ってみれば「目の前のお客様の上司になる」という感じに近いかもしれません。
会社では上司が部下に対して指示を出します。自分がこの目の前の方の上司になったとして、「どうやってうまくいかせるか」まで考えます。そうなるとかなり深く物事を突き詰めていくことになります。そこまで見えてくると、営業という仕事はとても楽しくなってくるでしょう。お客様の成功確率も上がりますし、お客様に喜ばれ、「一緒に働いている」という感覚を味わえるようになります。