営業の「あり方」がその後の展開に影響する
お客様からの質問に答える際の「あり方」がお客様とのコミュニケーションを大きく左右します。特に以下のような状況では、答え方の「雰囲気」がお客様の心象に大きな影響を与えます。
- 初回訪問でまだ関係ができていない段階での「品定め質問」
- 提案後のクロージングにおいてお客様が判断をする前にしてくる「確認質問」
こういった場面で求められるのは営業の「あり方」です。そして、この「あり方」は大きく3つのタイプに分けられます。
1
お客様からの質問を「攻略対象」として見るタイプ
このタイプの営業は、お客様の言葉を聞いているようで、実際には聞いていません。質問が来たら、条件反射的に「受注に有利な方の回答」をしてしまいます。例えば、「できますか?」という質問に対して即座に「できます!」と答えたり、「ありますか?」という質問に対して即座に「あります!」と答えたりします。結果的に、後々炎上する案件になることが多いです。
2
お客様からの質問を「情報」として見るタイプ
このタイプは意外と落とし穴になりやすいです。お客様からの質問に対して正確に答えているものの、どこか腑に落ちない印象を与えます。数分後に同じ趣旨の質問を別の表現でされた際に、「先ほども申し上げましたように〜」と、再び「情報」としてだけ答えてしまいます。
3
お客様からの質問を「氷山の一角」として見るタイプ
このタイプはお客様の質問の裏にある背景や文脈、さらには感情までも汲み取ろうとします。質問の表面的な言葉に対してだけではなく、その背後にある意図や感情、文脈や背景までを読み取りながら答えようとします。
質問に対して結論から答えるべきか、何秒の間を置いて答えるべきか、あるいはどういった表現を用いるべきか、といったことはすべて表面的な「テクニック」に過ぎません。重要なのは「まだ自分には見えていない何かがあるのではないか」「その何かがお客様のお役に立つ手がかりになるのではないか」という姿勢を持つことです。
お客様の「背景」を理解しよう
以前、弊社代表の高橋が経営者の友人と会話をしていたときのことです。その友人が「こういうことで悩んでいるんだよね」と言ってきたのに対し、高橋は「それならこうしたらいいんじゃない?」と、特に深く考えずに答えました。すると、高橋はその友人から「高橋さんは僕の言葉を情報として受け取っている」と指摘されたのです。
その友人が言いたかったのは「非常にしんどい、他の人には話せないような内容を高橋にだけ打ち明けた」ということです。つまり、その友人は信頼関係があるからこそ高橋に話してくれたわけで、そこには感情が含まれていたのです。しかし、高橋はその感情的な背景を読み取らず、つい普段の営業の感覚で素早く返答してしまいました。
人と人とが関わる以上、言葉の裏にはさまざまな事情やニュアンスが存在します。私たちは営業で成果を上げることを目指すあまり、言葉に含まれる微妙なニュアンスや背景を見逃しがちです。
とはいえ、お客様のお悩みに共感しようとすると、共感度が高くなりすぎてしまうことがあります。例えば、お客様のお悩みを聞く際、「それは本当に大変でしたね」と深く共感し、その状況を一生懸命に想像して没入するような姿勢で聞いてしまうことがあります。しかし、お客様は問題解決のためにプロに相談しているのであって、共感だけを求めているのではなく、具体的な解決策も求めているわけです。
そこで重要なのは先ほど挙げた「お客様からの質問を『氷山の一角』として見る」という考え方です。
異なる会社の人に悩みを相談する際、全ての情報を整理して話せる人は非常に少ないです。
では、どこまで理解したら十分なのでしょうか。この境界線を見極めるのは難しいですが、1つの基準となるのは、お客様が「今日は話す予定ではなかった過去の出来事」まで話してくださることです。そこまで聞けるということはお客様の心に寄り添い、深いレベルでお客様のことを理解できている証拠です。
重要なのは「真のニーズ」を聞くこと
高橋の著書『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)でも触れていますが、人の心には発言となって現れる表層的な「第一層」があり、その下に価値観や解釈、考え方といった「第二層」が存在します。そして、さらにその第二層を深掘りしていくと、それらの価値観や考え方が形成された背景にある「過去の出来事」にたどり着きます。これは、いわゆるトラウマという言葉で表現されることもあります。トラウマは、一般的にはマイナスの出来事を指しますが、ここでの「過去の出来事」にはプラスの影響を与えたものもあるはずです。
そうした過去の出来事を話していただけるとその後の会話もスムーズに進むことが多いです。ただし、「ここまで聞けたら絶対にOK」という明確な境界線はないので、あくまでも1つの目安として考えましょう。
例えば、お客様から「こういうことはできますか?」と聞かれたら、一度立ち止まって「お客様は何を実現したくてその質問をされているのか」をきちんと理解することが重要です。
「こういうことはできますか?」という質問に対してすぐに「はい、できます」と答えて次の話題に移ってしまうと、お客様が話そうとしていた社内の状況や背景、文脈などが聞けなくなってしまいます。
「こういうことはできますか?」という質問は、「満たされていないニーズ」があることを意味しています。そのように考えると、お客様の質問はその背景に非常に重要な情報が含まれている可能性が高いと言えます。
お客様から「こういうことはできますか?」と尋ねられた際に、満額回答ができない場合もあります。そのような場合、すぐに「できません」と答えることは、お客様に対して誠実な姿勢ではありますが、それでお客様のニーズが満たされるかというと、そうではありません。そのようなときは、代替案を示すようにしましょう。代替案を示す際にも、お客様の状況や要望をしっかりと聞き取ることが重要です。
お客様の質問の裏にある背景をしっかりと理解し、適切な提案ができるように努めることが大切です。