「理由作りのワーク」は3つのステップで
お客様から「検討してお返事しますので、お待ちください」と言われてしまう営業は多いようです。その際に役立つのが、提案を採用してもらうための「理由作りのワーク」です。「理由作りのワーク」では以下の3つのステップを言葉にしていきます。
- ①お客様は何と迷っているか?
- ②OKを頂く材料は揃っているか?
- ③最後にどう納得いただくか?
①お客様は何と迷っているか?
お客様が迷うのには以下の3つのパターンがあります。まずはお客様には「他の選択肢」があるのだということを認識しましょう。そして、その選択肢を「お客様の視点」で言葉にします。その際、自社都合にならないように注意しましょう。
- 他社の提案と比較して迷っている
- 今すぐ購入すべきかどうか迷っている
- 内製にするか外注にするかを迷っている
②OKを頂く材料は揃っているか?
次に、お客様が判断するための材料が揃っているかを確認します。選択肢A(自社の提案)と選択肢B(自社から購入しない)のどちらにもポジティブ・ネガティブな要素が存在します。まずは以下の4つの要素を全て洗い出しましょう。
- 選択肢A(自社の提案)に対するポジティブな要素
- 選択肢A(自社の提案)に対するネガティブな要素
- 選択肢B(自社から購入しない)に対するポジティブな要素
- 選択肢B(自社から購入しない)に対するネガティブな要素
これら4つの要素を全て洗い出したら、以下の2つの要素について「どのようにしてOKを頂くかのロジック」を検討しましょう。
- 選択肢A(自社の提案)に対するネガティブな要素
- 選択肢B(自社から購入しない)に対するポジティブな要素
③最後にどう納得いただくか?
最後に「もし発注を頂くとしたら…」と想定し、以下の4つの観点から考え、それをお客様のセリフにまで落とし込みましょう。ここまでやりきると失注のリスクは大幅に減らせます。
- 自社にどのように発注を伝えてくれるか?
- 他社にはどのように断りを入れるか?
- 社内にどのように報告するか?
- お客様自身がどのように納得するか?
特に、「最後にどう納得いただくか」が非常に重要です。
人は意思決定をするとき、「腹落ちする理由」を必要とするという性質があります。例えば「自分へのご褒美だ」と言って高額な買い物をしたり、「ダイエットは明日から」と言って多めに食べたりする性質があるのです。そのため、お客様にも「腹落ちする理由」をこちらから用意するようにしましょう。
「提案を受ける立場」で考えよう
営業で提案をする際、自社の強みをアピールしたり、他社とのコンペでは他社が弱いポイントを突いて「当社にはこういう強みがあります」と訴求したりします。しかし、提案を断られる理由は「アピールポイントが届かないから」というよりも、自社の提案にあるネガティブな要素や、他の選択肢のポジティブな要素であることが多いのです。
多くの営業は「提案がどのように採用されるか」は考えるものの、「どのように断られるか」という点については突き詰めて考えていません。そこでまず、「自分がその提案を受ける立場だったらどうか」をフラットに考えてみることが重要です。その上で、自社の提案に対するメリットとデメリットを洗い出していきます。そして、「もしこの提案を断るなら、どのような理由で断るか」を考えます。
提案を受ける立場からすると、自社の提案に対してネガティブに感じる点か、他社の提案に対してポジティブに感じる点のどちらかが断る理由になります。そこまで考えることができたら、その理由を解消していくわけです。しかし、弱点をすぐに解消できない場合もあります。そのような場合、「代替案で補う」というアプローチが必要です。
「抽象化」で行き詰まりを打破しよう
弊社代表の高橋が20代の頃、お客様によくこう尋ねることがよくありました。
高橋
もし仮に当社の提案が採用されるとしたら、どのような理由で採用されるのでしょうか?
接戦となるコンペの場合には、次のように尋ねていました。
高橋
もし仮に当社が断られるとしたら、どのような理由で断られるのでしょうか?
その結果、お客様から次のような懸念を聞くことがありました。
お客様
御社はまだ設立間もないので、実績の面で上層部が不安に思うかもしれません。
ここで重要なのは、このような懸念に対してすぐに「会社の歴史」を変えられるわけではない、ということです。では、どう対処すべきかというと、お客様の懸念材料を抽象化するのです。
「歴史が浅い」ということは抽象化すると「安心感が不足している」ということになります。そうであれば、「会社の歴史を水増しすることはできませんが、安心感を上げることはこのような代替手段で可能です」ということを示すことができればいいのです。
例えば、「価格が高い」と言われた場合でも、そのまま具体的なレベルで考えると「価格を下げる」以外に解決策が見つかりません。そこで、「価格が高い」という懸念を抽象化します。
「価格が高い」ということは、お客様にとってどのような不利益をもたらすのでしょうか。
例えば大企業の場合、価格が高いと他の予算を削る必要が出てくるかもしれません。すると、他の予算を管理している担当者と交渉しなければならず、お客様はその交渉が面倒だと感じるかもしれません。
中小企業であれば、今期の利益が厳しい状況で、現状の売上や利益から考えると提案された価格が妥当な投資額を超えてしまっている場合があるかもしれません。
つまり、「お客様が断る理由」を具体的なレベルのまま解消しようとするのではなく、それを一度抽象化して、抽象的なレベルで解決策を導き出すアプローチを取るのです。
このように考えると、できることの幅が大きく広がります。実際にそのように考えてゆくことで、提案自体が磨かれていきます。
今回の記事でご紹介した「理由作りのワーク」は『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)でご紹介している「提案ロジック構築力」というスキルに基づいています。ご興味のある方はご覧ください。