「10分手書きメモ」がメンバーの成長を促進する
若手メンバーの思考スキルが伸び悩み、指導に時間を取られてしまう営業マネジャーにおすすめの指導法が「10分考えた手書きのメモを写真で送ってもらう」というものです。手書きによるコミュニケーションはタイムパフォーマンスが非常に高く、指導の現場を一変させます。
営業マネジャーが若手メンバーを指導する際、以下のような課題が生じがちです。
- メンバーがどこで行き詰まっているのかわからない
- 何ができていて何ができていないのかがわからない
- 教えたことが理解されているのかがわからない
これらの問題は、相手の「頭の中」が見えていないことが原因です。このような場合に、「手書きのメモ」が有効な手段となります。
タイプ打ちで何かを送ってもらおうとすると、メンバーは「マネジャーに見せるため」に整ったものを送ろうとします。しかし、かなり初歩的なところでつまづいているメンバーが丁寧に長考しても、あまり進展はしません。かと言って、マネジャーが手取り足取り教える時間は取りづらいです。
手書きメモは思考プロセスが明確に表れるため、メンバーがどこでつまずいているか、何ができていて何ができていないか、教えたことがどこまで理解されているかが一目瞭然です。
その際、時間設定も重要です。「10分後に送る」となると、必死で考えすぐに書き始めないと間に合いません。
考える力が身についていないメンバーが長時間考えても、アウトプットの質は低いままです。しかし、現場では「ローパフォーマーがウンウン唸って労働時間が無駄に費やされる」という現象が放置されがちです。
「ローパフォーマーの長考」が放置される理由は、営業マネジャーがタスクの優先順位が高い他のことへかかりきりになるからです。その結果、「時間をかけて考えているが成果が出ない目標未達営業」が生まれてしまいます。弊社が実施した「営業1万人調査」でも、目標未達者は「時間をかけた提案で勝負する」という傾向が出ていました。
「10分考えた手書きのメモを写真で送ってもらえますか?」の一言によって、思考スキルに伸び悩む若手メンバーの生産性が上がります。マネジャーは即座にボトルネックを把握し、すぐに手が打てるメリットがあります。そして、メンバーは手書きのメモにフィードバックをもらうことにより、少しずつ言語化力と思考力が上がります。
その際、マネジャーからも10分考えた手書きメモをメンバーに送ってあげることで、メンバーは「この10分で、本来はどう考えるべきだったのか」がわかります。同じ論点での思考の違いを比較することによって、メンバーは思考力をさらに深めることができます。
また、一部の経営者から「うちのマネジャーは10分あってもメンバーにお手本となる手書きメモを書けないんです」とご相談いただくことがあります。そのような場合、まずはマネジャーを教育するようにしましょう。5003人を対象とした営業調査では「コンペの勝ち方がわからない」というマネジャーが45.1%いました。その状態にある上司が部下を指導しているという現実があります。
「10分手書きメモ」は、頭の中がどうなっているかを即座に見える化するタイムパフォーマンスの高い指導です。若手メンバーの思考スキルが伸びず、「教えるのにやたら時間がかかって忙しい」という営業マネジャーにとっては非常に有効なアプローチです。
思いついたことを自由に書き連ねよう
誰かに見せるために作成された資料は、その時点で「この情報は見せられない」とか「ある程度整理しなければならない」といった具合にフィルターがかかっています。しかし、手書きのメモには断片的な情報がそのまま出てくるため、後から見返すと非常にわかりやすいです。思考の流れを把握しやすくなるのです。
一方で、書くなら綺麗にまとめたいという気持ちも出てくるものです。ただし、その気持ちが強くなると、「綺麗な図解を書かなければならない」とか「しっかり整理しなければならない」というプレッシャーが手を止めてしまう原因になることがあります。そこでおすすめなのは「ただ思いついたことを自由に書き連ねる」という方法です。
弊社代表の高橋は仕事のノートを長年とっており、20代の頃に使っていたノートを今でも残しています。なぜそれを取っているかというと、ノートが自分の思考回路を表しているからです。過去の打ち合わせの内容を見返すと、「あの時この人と打ち合わせしたな」と思い出せるだけでなく、自分の考え方の癖やパターンが見えてきます。
例えば、高橋はネガティブ思考とポジティブ思考の間を行き来するタイプで、バランスの取れた「中間」というものがあまりありません。ある物事については「まあ、大丈夫でしょう」と楽観的になりすぎたり、逆に「本当に大丈夫かな」と慎重になりすぎたりする傾向があります。そうした自分の典型的な思考の流れを把握しておくと、何かと便利なのです。
世の中の多くの人はバランスを取って物事を考える傾向があるのではないかと思います。例えば、営業が提案をする際には相手の部長が「この提案にどうすればYesと言ってくれるか」を考えます。そして、部長のニーズが何かを探り、それに基づいて資料を整理していく、というプロセスを踏みます。高橋も資料を作成する際には同じように整理をしますが、考え方自体は少し異なります。
高橋の場合、「自分がその部長の立場だったら、絶対にこれを実行するだろう」ということをまず考えます。それを「なぜやるのか」というところまで考えます。もしそれでも部長が提案を受け入れないとすれば、それは特段の事情があるか、伝え方に問題があるのではないかと考えます。そして、そこからさらに悲観的なネガティブ思考に切り替えて見落としているリスクがないかを考えます。
このようにして考えを進めるので、最終的にプレゼンテーションのストーリーや順序をまとめるのは本当に最後の段階です。つまり、「この部長にYesと言ってもらうために、まずこれを伝え、その次にこれを伝えて…」というような段階的な考え方ではなく、「最後に全体がまとまる」という流れになっているのです。
極端に思考を振り切って、いろいろな話の展開や頭の中の情報を徹底的にかき回していくと、最後には自然と何かがまとまる、という感覚なのです。
「手書きメモを共有する文化」を作ることが重要
これまで高橋はこうした感覚を精緻に言語化して他の人に共有することはほとんどなく、社内のマネジメントや組織のメンバーへの指導の際にも、「いきなりストーリーから始めるのではなくて、まずは考えをしっかり深めようよ」といったようにだけ伝えていました。
しかし、そのように言われても、言われた側は「え?」となってしまいます。「かき回して、最後にまとまる」と言われても、具体的に何をどうするのかがよく分かりません。
そこで、高橋はすべてのプロセスが詰まったノートを共有することにしました。「最後にまとまる」と言っても、それは突然空から降ってくるわけではありません。やはり、そこには整理していくプロセスがあるのです。そのプロセスが、手書きのノートにはすべて残っています。
これを上司から部下、あるいはマネジャーからメンバーに対して行うのは非常に有効です。また、メンバーがどこで行き詰まっているのかを把握する際、具体的にどこで行き詰まっているのかが分からないことがあります。そこで、できるだけ詳細にそのプロセスを記録してもらうことが重要です。
ただ、「君が考えていることを知りたいから、ノートを全部写真に撮って送ってくれ」といきなり言われても、相手は「怖い」と感じてしまいます。だからこそ、日常的にそういったことを行えるようにしておくことが大切です。
高橋もよく手書きのノートを写真で撮影して共有したり、iPadを使って手書きメモのスクリーンショットを撮り、その画像をSlackに貼り付けたりしています。そういったやりとりが日常的になることで、指導の無駄や非効率な部分が改善されるようになるでしょう。