「スキルを伸ばす指導」の9つのポイント
よく、マネジャー職の方から「営業スキルの育成に悩んでいる」とご相談をいただくことがあります。「スキルを伸ばす指導」には9つのポイントがあります。
以下にその9つのポイントをお伝えします。
①レベルを定義する
スキルは「できる・できない」の二元論で判断されがちですが、段階的な評価が必要です。
以下は質問スキルの例です。
- 【LV1】シートを見ながら質問ができる
- 【LV2】質問内容が完全に頭に入った状態で質問できる
- 【LV3】答えやすく、自然な会話の流れで質問できる
- 【LV4】かわされてもさらに踏み込んで質問できる
- 【LV5】かわされても情報を引き出せる
②成功体験をする
メンバーのスキルを向上させるためには、まず「できる」体験を提供し、その後に次のレベルに挑戦可能な設計が必要です。最初は確実にクリアできる課題からスタートすることがポイントです。段階的な難易度設定をしましょう。
③ピンポイントで練習する
いきなり「実際の商談の流れに沿って一通りやってみる」というやり方で練習してしまうと、「どこができて、どこができていないか」が明確になりません。練習の場面を細かく分けて、特定のスキルに集中して鍛えることが効果的です。
④お手本を作成する
効果的な練習には「お手本動画」と「動画を見る際のチェックポイント」があると良いでしょう。お手本は良い例だけでなく、悪い例もあえて作成すると有効です。動画を見る際のチェックポイントは動画の流れに沿って箇条書きでまとめておくと分かりやすいです。
⑤練習のやり方を練習する
マネジャーが毎回メンバーの練習に立ち会うと、マネジャーの工数が練習のボトルネックになります。そのためマネジャーはレベルチェックを担当し、練習はメンバー同士でできるようにしておくと良いでしょう。その際、事前にマネジャーも含めて全員で練習のやり方を確認しておくようにしましょう。
⑥量をこなす仕組みを整える
反復練習をしてレベルを上げていきましょう。マネジャーによるレベルチェックはメンバーが練習をしないとクリアできない難易度に設定します。また、メンバー同士の練習は10〜15分程度の短時間でできるように工夫し、忙しさから優先順位が落ちないようにしましょう。
⑦実際の商談に臨む
練習が目的化しないように時折実際の商談の流れに沿って練習してみましょう。そうすることで上達していることを実感することが重要です。それができたら、実際の商談に臨みます。商談ではマネジャーも同席し、一緒に練習の成果が出ている場面を体験しましょう。
⑧学びの習慣を作る
多くのメンバーは振り返りをして、改善し、次に活かすということをしていません。KPT(Keep、Problem、Try)の観点から行動習慣を作りましょう。
- Keep:うまくいっていることはそのまま続ける
- Problem:問題点を改善する
- Try:新しく何かを試みる
⑨経験学習サイクルを回す
デイビッド・コルブ氏の経験学習サイクル「経験→内省→概念化→試行」が回るようになるとメンバーの成長スピードは格段に向上します。経験学習サイクルを効果的に機能させるには、ここまでに述べたレベルの定義、練習とレベルチェックの方法、練習をやり続ける動機(実際に成果が出ること)までを整えておくようにしましょう。
物事に上達する上で最も大事なのは「基礎」
メンバーの育成において、ビジネスとスポーツの共通点は非常に多いです。スポーツの世界には特定のスキルを習得するための膨大な経験やノウハウが蓄積されています。
UCLAの伝説的な名将ジョン・ウッデン監督が実践していた「ピンポイント練習」というものがあります。ウッデン監督は練習を細かく分けることで知られた指導者でした。
ウッデン監督は大学バスケットボール界で「20世紀最高の指導者」と呼ばれた人物で、学生スポーツの指導者として大きな成功を収めました。プロスポーツと異なり、大学スポーツは選手が入学し、卒業していくため選手が年々入れ替わります。そのため、プロスポーツとは異なる指導が求められます。その中でウッデン監督は長年にわたり成果を出し続けた偉大な指導者です。
特に知られているエピソードに「靴紐の結び方から教える」というものがあります。想像してみてください。全米バスケットボール界のカリスマと呼ばれる指導者のもとに集まるのはNBAを目指すような最高のプレーヤーたちです。その彼らに対して、ウッデン監督が最初に行った指導は「靴紐の結び方を教えること」でした。
「え? 靴紐?」と思いますよね。「何を言っているんだ?」と感じるかもしれません。しかし驚くべきことに、多くの選手が「正しい靴紐の結び方」を知らなかったのです。ウッデン監督は「君たちは、基本である靴紐の結び方すら知らない」と指摘し、そこから指導を始めたのです。
スポーツでもビジネスでも、基礎や基本が大事だと言われますが、偉大な指導者はその重要性を独自のやり方で教えます。人はある程度何かに上達するとより応用的なことや高度なスキルを学びたくなるものですが、ウッデン監督はまず基礎を徹底的に指導していたのです。
その結果、一流の選手たちが徹底的に基礎を身につけ、最強のチームが出来上がるのです。これは基礎の重要性を自覚することの大切さを示しています。
その基礎を徹底的に磨くためにウッデン監督は練習を細かく分けて行う「ピンポイント練習」をしました。何ができて、何ができていないのかを曖昧にせず、練習を細かく切り分けて正確に習得できるようにしたのです。
成果が上がるサイクルを作ろう
どんなに優秀だと言われる人でも、全てにおいて完璧であることはありません。できていないことを認め、改善し、課題を1つずつ克服していくことは大変ですが、その先にしか成長はありません。このプロセスを理解し、実践することが上達への道です。
営業でも話を聞いているだけだと何となく自分ができているつもりになりがちです。例えば、本を読むと「大体これ自分もやってるな」と思ったり、講演を聞いても「大体これ自分もできてるな」と感じることがよくあります。しかし、実際に「ではやってみてください」と言われると、なかなかうまくできないことが多いのではないでしょうか。
そのため、弊社のトレーニングでは「さあ、やってみよう」が基本のスタンスです。話を聞くだけではできているつもりになってしまうため、実際にやってみることが重要です。これをケーススタディやロールプレイなどで行います。
その上で、トレーニングや指導においては「やって良かった」と思える場面をいかに作るかが非常に重要です。この考えは行動分析の理論「きっかけ」「行動」「報酬」に基づいています。何かの行動を促進するときには、この3つがしっかりと繋がっていることが大切です。
まず、「これは練習の成果を発揮する場面だ」と認識することが「きっかけ」になります。次に、そのきっかけをもとに練習の成果を活かして行動する。例えば、練習したことを商談で実践することです。最後に、その行動の結果、良い成果が得られることが「報酬」です。この「きっかけ」「行動」「報酬」のサイクルがうまく機能すれば、成功につながりやすくなります。
ある会社で「スキルマップ」を作成し、それを運用するという取り組みがありました。このスキルマップは、数十項目にわたるスキルを自己評価と上司の評価で段階的に確認するものです。しかし、このスキルマップもメンバーが「やってみて良かった」と感じられなければ、やらされ感が強くなってしまいます。「やらされ感」でやっていたら、メンバーは「こんなことをする時間があったら、商談をさせてほしい」と感じてしまうかもしれません。
このような取り組みを効果的にするには、その施策の成果を数日以内に感じられるようにすることが大切です。単にチェックリストを埋めるだけでは「きっかけ」「行動」「報酬」がうまく繋がらないのです。そのため、具体的にレベルアップの機会を与え、さらにその成果をすぐに実践できる舞台を用意することが重要です。