「議事録を作成する力」が重要な理由
「新卒や若手の営業に何から教えたらいいですか?」という質問をよく受けます。基本的な業界知識や商品知識、ビジネスマナー、PCスキルなどの前提をクリアした上で強調したいのは「議事録を作成する力」です。お客様の言葉をしっかりと拾うことができるかどうかで営業の成長スピードが大きく変わります。
若手の営業が陥りがちな課題として、次のようなポイントが挙げられます。
- 相手の話を聞かず、一方的に話してしまう
- お客様との話が噛み合わない
- 一問一答の尋問的なコミュニケーション
これらの原因の1つとして、「ヒアリングシート」の存在が大きいです。ヒアリングシートは営業の初心者でも成果を出しやすくするために、聞くべき項目がリスト化されています。リストに基づいて聞くべき項目を整理することで、経験が少なくても重要な点を漏らさずにヒアリングできます。
しかし、ヒアリングシートに依存しすぎると営業が「こちらが聞きたいこと」だけを尋ねる傾向が強くなり、お客様と対話ができなくなるリスクがあります。実際にハイパフォーマーとされる営業はヒアリングシートの項目順には聞いておらず、お客様と対話をしています。
では、どうすればお客様と対話ができる営業に成長できるのでしょうか。その鍵を握るのが「議事録を作成する力」なのです。議事録を通じて会話の流れを追い、拾うべき発言を拾い、情報を整理するスキルを身につけることができます。重要度や関係性に沿って情報を整理することで、営業の基礎が培われます。
議事録がきちんと取れるようになると、以下のような効果が期待できます。
- 商談の着地点が明確になる
- お客様にどう話してもらうと良いかが理解できる
- 商談の山場がわかるようになる
- 重要な情報と些末な情報を区別できるようになる
「議事録を作成する力」が「対話力」を高める
議事録はただ言葉通りに書き起こすことも難しいのですが、それ以上にその内容を整理し、構造化することが求められます。そして、その構造化された情報から何が言えるのかを抽出するプロセスも必要です。その上で発言を意味の塊として整理し、順序を考えて並び替えることが求められます。
さらに、それをまとめるだけでなく、そこから何が言えるのかを自分なりに分析し、仮説やメッセージに落とし込むことが重要です。社内向けの議事録とお客様向けの議事録は異なる形に加工する必要があり、それを人数分作成するのは非常に時間がかかる作業です。
このような作業を通じて、お客様の発言やコメントをしっかりと拾い、それを意味のある形で整理する力が養われます。1本の議事録を作成するプロセスの中で、対話力が向上するのです。
お客様からすると、自分の話がきちんと受け止められていないと感じることは悲しいものです。だからこそ、営業が「お客様の話をきちんと受け止めていますよ」と示すことは非常に重要です。
多くの場合、お客様自身も考えが整理されていません。そんな時、営業がその考えを整理することは大きな付加価値となります。質の高い議事録を作成することはお客様にとって大いに助けになるのです。
『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)では接戦案件における「決定場面のヒアリング」を推奨していますが、その中で「送られてきた議事録の質が高い」ということがお客様の心が動く大きなポイントになっています。経験やスキルがまだ十分でない若手の営業でも質の高い議事録によってお客様の心を動かすことができるのです。
情報を整理することは信頼に繋がる
営業はお客様の話を自社の商品に無理やり結びつけようとして話を進めてしまうことがあります。自分の提案に関連する話だけを聞き、そうでない部分には触れないようにしてしまうのです。
しかし、議事録作成が得意な営業はお客様の話をしっかりと受け止め、情報を整理した上で「この部分についてはお役に立つことは難しいですが、この部分ではお役に立てます」といったように、お客様の話を正確に理解し、どこで役に立てるのか、どこでは難しいのかを明確に示すことができます。
こうした状況において、「お客様の発言をしっかり聞いて受け止めたときに、自社で対応できない場合はどうすればいいのでしょうか?お客様の話を聞いておきながら、それに答えないのは不誠実なのではないでしょうか?」という質問がよく出てきます。
しかし、冷静に考えてみましょう。お客様もすべての要望を魔法のように満たしてくれるサービスがあるとは期待していないのです。もし、購買経験が全くないお客様であれば全ての要望を満たしてくれる完璧なサービスがあるものだと期待することもあるかもしれませんが、購買プロセスを進める中で「そんなものは存在しない」と気づくでしょう。
この時、営業が見落としがちなポイントがあります。それは、商品の機能やスペックだけではなく、「その営業が信頼できるかどうか」がお客様が発注するかどうかを決める選定基準の中で非常に重要な要素だということです。
例えば、「この部分についてはお役に立つことは難しいですが、この部分ではお役に立てます」としっかりと整理して伝える営業は、購買側からは非常に誠実だと感じられます。また、他社の営業と話がうまく噛み合わない中で、しっかりと話が噛み合う営業がいるとお客様との間に信頼関係が生まれます。
こうしたことができるようになるための基盤となるのが「議事録を作成する力」です。「議事録を作成する力」を培うことで、お客様と信頼関係を作ることができるようになるでしょう。