要件整理はタイミングが重要
商談の際にお客様からヒアリングした内容を整理し、最終的に「ずれていませんか?」と確認すると、多くの場合「だいたい合っています」との返答が返ってきます。しかし、提案後に認識のズレが発覚することは少なくありません。これを防ぐためには、要件整理のタイミングが重要です。
お客様が仰る「だいたい合っています」の「だいたい」という表現が鍵であり、ちょっとした違いやズレを見逃さないことが重要です。そのためには、質問を工夫する必要があります。
ちょっとした違いやズレを見逃さないための要件整理のポイントとして、以下の3つの視点があります。
- ①網羅感:情報に漏れがないかどうかをチェックする
- ②具体化:曖昧なことをはっきりさせ、解像度を上げる
- ③優先順位:トレードオフや重要度について問う
これらの視点から問いかけをすることで双方向の議論が生まれ、認識のズレを防ぐことができます。
では、この要件整理を「いつ」行うべきでしょうか?
ヒアリングの終盤に要件整理を試みると、商談が時間切れになるか、もしくは「後で考えてお返事します」といった返答が多くなりがちです。そこでおすすめするのは、ヒアリングの途中段階であえて早めに「仮の整理」をすることです。具体的には「いったん、ここまでのところを簡単に整理させて頂けますか?」と切り出すようにしましょう。
お客様は必ずしも自分で整理しながら話しているわけではなく、会話の内容が偏ったり、大事なポイントが曖昧なまま話が進んだりすることがよくあります。そのため、途中で「網羅感」「具体化」「優先順位」を提示することで、商談における議論の質を向上させることができます。
特にお客様の思考を刺激するのは「優先順位」の問いかけです。
- AとBのどちらが大事か?
- 一番譲れないポイントはどこか?
- Aを優先するとBが犠牲になるかもしれないが、それで良いか?
このようにトレードオフに直面することで、人は考える「緻密さ」が向上します。
「お客様の話の内容を整理し、間違いがないかを確認する」という商談の進め方では超えられない壁が存在します。その壁を突破する鍵は、「お客様の思考を良い角度から刺激する問いかけ」であり、その鍵は「仮に行う、早めの要件整理」が握っています。特に優先順位を問う質問がその後の展開を大きく変えます。
仮説を立てて質問をしよう
では、なぜお客様に「ずれていませんか?」と聞くだけでは、「網羅感」「具体化」「優先順位」の情報を正確に把握することができないのでしょうか。
なぜなら、人は些細な違和感を正確に言語化することは難しいからです。それが、要件整理の際に工夫が必要な理由です。
まずは「質問の仕方」を工夫するようにしましょう。この点に関しては弊社代表高橋の著書『質問しだいで仕事がうまくいくって本当ですか? 無敗営業マンの「瞬間」問題解決法』(KADOKAWA社)という本の中で、さまざまな会話の例を紹介しています。
例えば、単に「ずれていませんか?」と尋ねるのではなく、「他のお客様とお話をしているとこういった話題がよく出るのですが、御社ではどうですか?」といったように質問をします。また、優先順位がはっきりしていないように見える場合には、「ここについては、どちらが大事でしょうか?」と踏み込んで聞くことが大切です。
このような質問の仕方は「ずれていませんか?」という問いかけとは性質が異なります。どう違うかというと、「ここがずれていそうだな」という点に対して仮説を立てて質問をしているということです。「お客様はここがまだはっきりしていないかもしれない」「当社とお客様の認識がここでずれているかもしれない」と予想し、それに基づいてこちらから質問を投げかけています。「ポイントを特定して質問をする」ということです。
ただし、その技術を高めるのが難しく時間がかかりそうな場合には、お客様に対して早い段階で確認をするようにしましょう。
商談が終わる5分前に「何かずれていませんか?」と尋ねられても、お客様からすると商談があと5分で終わる頃にはもう面倒なことはしたくないと思うでしょう。商談が終わりに近づくとお客様は終わりのモードに入りますので、何か問題があったとしても言わない可能性が高いのです。
そのため、商談が終わる5分前では遅すぎるのです。では、どのタイミングでずれがないかを確認すればよいのでしょうか。
これについては高橋の著書『気持ちよく人を動かす』(クロスメディア・パブリッシング)という本にも書いてありますが、商談の半分の時間が経過した時点がおすすめです。半分の時間が残っていれば、残りの時間で十分な議論ができるからです。例えば60分の商談であれば残り30分のところで、30分の商談であれば残り15分のタイミングで確認をすると良いでしょう。
商談後に送るメモの送付はスピードが重要
商談終了直後にメモを整理し、それをお客様に送ることも重要です。メモの書き方は箇条書きがおすすめです。メールの中に「①…②…③…」といった形式で要点をまとめておくと良いでしょう。そして、お客様が何かずれを感じた場合に訂正を加えた返信がしやすいメールの文章を書くのです。
また、メモを送るタイミングは早い方が効果的です。若手の営業がよく悩むのは、間違いがあってはいけないと考えて内容をじっくり手直ししているうちに時間が経ってしまうことです。
もちろん、お客様に送るものだからこそ間違いがあってはいけない、正確なものを送らなくてはならないと思うのは当然です。しかし、インパクトを与える上ではスピードが重要です。
誤字脱字や文章表現のチェックはマネジャーが行うことが多いですが、マネジャーが赤ペンを入れて修正する間に時間がかかってしまうこともよくあります。したがって、ある程度の裁量を持って担当者が迅速に送る方が営業活動のスピードは上がります。
メモを送る際は「○○様が社内でご活用される際に早い方が良いかと思い、取り急ぎお送りいたします。誤字脱字や表現が不十分な点があるかもしれませんが、ご容赦ください」といった文言を書き添えておけば、お客様も「この人はスピードを重視して対応してくれているんだな」と理解してくれるでしょう。
もちろん、送る相手によっては注意が必要な場合もあります。例えば、お客様が細かい点にうるさい会社であることがわかっている場合はしっかりとチェックする必要があります。ただし、よほどのことがない限り、すべてをマネジャーが事前にチェックしないとお客様にメモ1つ送れないということはありません。
これは受注率を上げるための非常に大きな武器になります。高橋の著書『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)にも書いてありますが、「決定場面のヒアリング」を実施している中で、実際にお客様にヒアリングをしてみると、商談後のスピード感ある対応が非常に高い加点要素となっていることがわかります。
スピードの重要性については弊社が実施した「お客様1万人調査」でも出ていますが、多くの営業が思っている以上にお客様のスピードに対する加点要素は大きいです。ここは営業とお客様との間で認識にギャップがある部分と言えます。
逆に、スピード感で勝負をしようと思っている営業は成果を出しやすいでしょう。