お客様から想定外の反応が出たら「深掘り」をしよう
「お客様から想定外の反応がくると慌ててしまう」という営業からの相談はよくあることです。想定外の反応が出たときは、「もう少し詳しく伺えますか?」と深掘りして、お客様の意図を理解しようとする姿勢が重要です。お客様を説得・論破する関係ではなく、お客様と一緒に新しい何かを「発見」する関係を築くようにしましょう。
もちろん、事前準備が大切であることは前提です。場当たり的に商談を進めるのではなく、ゴールを見据えて、事前に様々な可能性を考え尽くしておくことは重要です。しかし、それでもなお想定外の発言が出てくるということは、事前に考えきれなかった「何か」があるということを意味します。その「何か」を突き止めることが商談を成功に導く鍵です。
お客様から想定外の反応があった場合、以下のような可能性を考える必要があります。
- お客様の事情が知らない間に変わっていたのか?
- 気づかないうちに競合がアプローチしていたのか?
- これまでのヒアリングで何か情報が漏れていたのか?
- まだ十分な関係を構築できていなかったのか?
こういった可能性を検討し、何が原因かを解明することが必要です。
また、「お客様からの要望には100%応えなければならない」と考える営業も少なくありません。そのような営業は、自分が応えられない要望が出てくるのを怖れて、無意識のうちに話題を限定しがちです。しかし、それはお客様と営業の間の情報ギャップを広げてしまうリスクがあります。
現実的には、お客様も営業が100%要望に応えることができないことを理解しています。それよりも重要なのは「お客様を理解し、貢献しようとする姿勢」や「自社のサービスを押し付けるのではなく、お客様の要件に合った提案をすること」です。
弊社が提唱する営業3.0「共創」の時代においては、お客様と共に新しい価値を生み出すことが求められます。全員が当事者として夢中になり、新しい価値が生まれる商談にするためにはビジョンを描きつつ、お客様と対話をしながら壁を乗り越えることが重要です。
対話をすると「話すことで気づく」という現象が起きます。対話を通じて新たな発見をし、未知の領域を見つけるために積極的に深掘りしていく姿勢が求められます。
未知の会社を知るプロセスとは
弊社代表の高橋は15年程前、ある会社の業務支援をしていました。
最初の頃、相手方の会社を理解する必要があったため、高橋は「席をください」とお願いしました。そして週に2日はその会社に通い、朝から晩までその席に座っていました。
しかし、ただ座っているだけでは意味がありません。その会社にとって役に立つ行動をしなければならないのです。まず、課題を深く理解するためにその会社について最も詳しく語れる方に会いに行きました。最初に社長や役員にアポイントを取り、話を聞いて「なるほど」と理解を深め、その後、ミドルマネージャーや管理職クラスの方々にも話を聞きました。
次に、チームの定例会議に参加させていただくようお願いし、何かしら役に立てることをしました。その後も現場の担当者がどのような人物かを知るために現場に同行したり、昼食を共にしたりして、話を聞き続けました。
その会社の組織図には高橋の名前は記載されていませんでしたが、座席を提供してもらい、朝から晩までその会社の役に立つことをし続けました。すると、その会社についても次第に詳しくなっていきました。
そうしていく内に、自分が貢献できるポイントが見えてきました。そこで、まずは感度の高い方を味方に引き入れることにしました。食事に誘ったり、一緒に仕事をしたりしながら距離を縮め、その方のチームに張り付いて、チームのパフォーマンスを向上させるお手伝いをしていきました。そして段々と順調に物事が進み始めました。
すると、その結果を聞きつけた他のチームリーダーから「うちのチームにも来てくれないか」という依頼が来るようになりました。そうして他のチームにも関わっているうちに、今度は「個別にチームを回るのでは時間が足りないので、もっと全体に対して何かやってほしい」と求められるようになり、関わる人たちの階層がどんどん上がっていきました。
最終的には役員たちと定期的にミーティングを行うようになり、その結果、その会社と合弁会社を設立するという話に進展していきました。この過程では、時間をかけて未知の会社について深く理解するプロセスがありました。高橋はこの体験を非常に鮮明に記憶しており、大きな発見があったと言います。
「時間を使う」姿勢が自信を生む
こうしてインパクトを出す方法が自分なりに実感できるようになり、その後数年が経ってから高橋は現在の会社を設立しました。当時高橋は営業支援の仕事を始めたばかりで、もともと違う分野の仕事をしていたため、他社の営業を支援するということがどういうものか、最初は全くわからない状態からのスタートでした。
そこで再び「席を借りる」という方法を試みました。ただ、物理的に席を借りるのは難しいこともあるため、最初は会議室を借りっぱなしにするということから始めました。
当然、重要な会議室のスペースを長期間お借りする以上、必ず役に立たなければなりません。いきなり朝から晩まで会議室を使い続けるのは難しいため、最初はミーティングベースで少しずつ会議室を借りることから始めました。次第にミーティングの回数が増え、「会社のオフィスのオープンスペースで作業してください」と言われるようになり、そこで席を確保するようになりました。
社員の方々と行動を共にすることで、距離が近くなっていきました。この期間で費やした時間はすべてが売上につながるわけではなく、ほとんどが先行投資です。しかし、この経験は非常に有益で、お客様について学ぶための貴重な体験だったと高橋は言います。それ以来、毎年3社を目標に「席を借りる」取り組みをし続けました。これを3年間続けた結果、合計9社の席を借りることになり、高橋はそのおかげでお客様のことを非常に詳しく理解できるようになったのです。
現在の高橋は以前のように席を借りる時間もなかなか取れなくなっています。しかし、気持ちだけは当時に戻り、お客様のことを1から理解し、どうすれば役に立てるか、どうすればインパクトを出せるかを必死に考えています。そして、お時間をいただく以上、必ずバリューを提供しようという気持ちで取り組んでいます。このバリューという言葉は、高橋が新卒で初めて入社した会社で教わったものです。今振り返ってみると、非常に大切なことを教わったと高橋は言います。「自分がそこにいるからには、必ずバリューを出しなさい」というプロとしての心得のようなものでした。
このように取り組んでいると、対応力がどんどん鍛えられていきます。その結果、想定外の反応や予期せぬ出来事が起こったときにも、「これはチャンスだ」と捉えられるようになったのです。なぜなら、そこにはまだ自分がお役に立てる余白があるからです。
想定外の反応が怖いと感じるのは、お客様の役に立つ自信があるかどうかに深く関係しています。もちろん自分の商品を買っていただくことも1つの手段ですが、役に立つというのはそれだけではなく、自分の時間を投資するという役立ち方もあります。
「時間を使うことは働き損ではないか」と思われる方もいらっしゃるかもしれません。しかし、高橋は今振り返ってみると、それは最もリターンの大きい投資の1つだったと言います。投じた時間と、それによって得られたインパクトを考えると、「やらない方がもったいない」と思えるほどのインパクトがあったのです。そのため、今でも規模は小さくなりましたが、同じようなことをコツコツと続けています。