お客様の社内検討が停滞する理由
良い感触を得た提案にもかかわらず、お客様の社内検討プロセスで停滞してしまうことがあります。営業が「何かできることはありませんか?」と尋ねても、「いえ、大丈夫です」と返されることが多いものです。そのような場合、「お客様が次の工程で必要なもの」を仮説ベースで提示することが有効です。オープンクエスチョンで聞くのではなく、具体的な提案をすることが重要です。
お客様が営業に対して「大丈夫です」と返す背景には、「何をどこまで頼ればよいのか」が分からないことがあります。また、社内での検討がどの段階で停滞しているのかを言語化するのは難しいため、つい無意識に「大丈夫です」と答えてしまうのです。
「何かできることはありませんか?」とオープンクエスチョンで聞くことを避けるべき理由は、「大丈夫です」と返答されたときに次の一手がなくなるからです。それに対し、「こういうものもありますが…」と具体的な提案をすれば、何かしらのフィードバックを得ることができ、次の行動に繋げやすくなります。
もう1つ多いケースとして、「やるべきことはわかっているが、他の業務が忙しくて社内検討が進まない」場合があります。このような状況では、お客様自身が課題を認識しているため、外部ベンダーに頼る必要はないと考えて自力で進めようとします。しかし、実際には忙しさのために物事が進まないことが多いです。そこで、営業としてどのように対応するかが問われます。
お客様の社内における意思決定プロセスを支援するためには、お客様から求められる前に「こういう材料が必要ではないでしょうか?」と具体的な案を提示することが効果的です。「例えばこういうものもありますが、もしお役に立つようでしたら…」と提示することで、お客様は初めて「ああ、こういうフォローもしてくれるのだな」と具体的なイメージを持つことができます。
「他社との比較表」を出してフォローしようとする営業は多いですが、比較表を出すこと以外にもできることはあります。例えば、お客様が社内に送るメールの文章を部分的に作成して提供することなども有効です。また、エンタープライズ営業ではお客様の社内で使われるPPTテンプレートを入手しておくとさらに便利です。
「会社がお金を使うことの難しさ」を考えよう
良い感触があった提案にも関わらずお客様の社内プロセスで停滞してしまう際に多くの営業が見落としがちな盲点に「他社からの提案を社内で承認に上げる際のスキル・ギャップ」があります。
これは、「担当者が仕事ができないから承認が取れない」ということではありません。そうではなく、「社内でお金を使う判断をすること自体が非常に難しい」という現実があるのです。この難しさをあまり深く考えずに済ませてしまっている営業は多いです。
弊社代表の高橋は最初に起業した会社では人事系の教育ベンチャー企業を経営していました。そこでは主に大手企業を対象にロジカルシンキングやプレゼンテーションに関する研修を提供していました。
その際、高橋は研修の一環として上司に承認を得るための演習をしていました。その中で、参加者の多くが上司に対して承認を得るためのコミュニケーションがうまくできていなかったと言います。
「うまくできない」とは、「上司に承認を求める行為自体ができない」という意味ではなく、「会社として納得がいくような意思決定をしてもらえるような提案の仕方ができない」ということです。高橋の感覚ではそれができるのは100人中数人といったレベルであり、1割にも満たないと言います。具体的には、「なぜこの提案にお金を使わなければならないのか」「その検討が網羅的に行われたのか」「判断基準が適正であるのか」といった質問に対して、しっかりと準備ができている人はごく少数である、ということです。
たとえば、「A社から提案を受けました。これが良いと思うので承認をお願いします」といった話し方は誰もができています。ただ、それだけでは「それって会社のお金を使ってまでやるべきことなのか?」と上司に問われた時に耐えきれません。
あるいは単純に、「他の選択肢と比較した?」という問いも出てきます。そこで、例えば「他社も検討しました」と報告するとします。その際に、もちろん上司がそれを受け入れるかどうかはケースバイケースですが、「その検討した会社は本当に十分な候補だった?きちんと検討し尽くした?」と突っ込まれたときに、胸を張って「はい、しっかりと検討・比較しました」と答えられるかどうかが問題です。そして、実際にはこれは非常に難しいことです。
世の中に存在するすべての会社を検討することは現実的には不可能です。そこで、「こういった観点でいくつかの会社を調べました」と説明するのが一般的ですが、その際に「適切な候補を選んだ?」とさらに問われたときに、納得のいく説明ができるかどうかもまた難題です。
さらに、「なぜそれが良い選択肢なの?投資対効果や費用対効果はどうなのかな?」と聞かれたときに、未来のことを見通して十分な説明をするのは非常に難しいです。結果として、多くの場合、提案書を見せて少し補足する程度で、「こういった経緯でこの会社から提案を受けまして、良いと思うのですが、どうでしょうか?」と上司に伺う形になりがちです。
しかし、他人が作成した資料を完全に理解するのは難しいです。そのため、上司がその資料を見ても「よくわからない」となり、最終的に提案が差し戻されたり、却下されたりするわけです。
具体的な支援がお客様の社内検討を促進する
そのような場合、高橋の著書『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)の中でも解説している「決定場面を問う質問」が重要です。「決定場面を問う質問」をして、そのデータをコツコツと蓄積していきましょう。
弊社も「決定場面を問う質問」をすることで接戦で決定した案件に関して約95%のケースで受注の要因を聞くことができました。これにより、「こうすれば通りやすいのではないか」という材料を持って戦うことができるのです。そして、承認を得る際には、ある程度その材料をしっかりと用意することが重要です。
具体的には、資料はもちろん用意しますが、さらにお客様の社内コミュニケーション用のテキストを準備すると良いでしょう。近年では口頭だけで承認を得ることはほとんどなく、多くの場合、何かしら書面で上司に報告する必要があります。この書面作成が手間で、途中で止まってしまう案件が非常に多いのが現実です。
そこで、テキストの一部を事前に準備しておくことが有効です。社内向けのメッセージやコミュニケーションの文言を途中まで作成し、「これを素材として使ってください」と差し出すのです。
ここまで支援をすると受注率は明らかに上がります。繰り返しになりますが、このようなビジネススキルを最初から身につけている人は100人中10人もいないのが現実です。
そのため、お客様の社内の巻き込み方や、そのレベル感を見極めながら、お客様が私たちの提案の価値をしっかりと理解し、社内コミュニケーションを1人で進められるかどうかを確認する必要があります。ただし、直接「お客様、ちゃんと一人で進められますか?」と尋ねるわけにはいきませんから、少し探りを入れる必要があります。
その際にどのような言い回しで探るかというと、例えば「これを上司の〇〇部長にお見せしたとき、部長の第一声はどのような感じでしょうか?」といったように聞きます。こう質問したとき、上司である部長としっかりコミュニケーションを取っていて、部長の判断基準をある程度把握している方であれば、すぐに答えが返ってきます。一方で、うまく答えが返ってこない方もいます。これは少し注意が必要なサインです。
そのような場合には、さらに詳細に状況を確認し、どのレベルから関わって支援するのが最適かを考えます。そして、必要な素材を作成して提供します。例えば、オンライン商談であればチャットで資料を送ったり、対面での商談であれば「この部分は後でメールで送りますね」と伝え、後からメールで送ることもできます。
そのようにして、社内での承認を得るため支援をすることが受注率の向上に繋がります。