停滞している商談を前に進めるには?
以下のような状況の場合、営業はどう対処すべきでしょうか。
- 「買いたい」という意向を示していたお客様との商談が停滞している
- キーパーソン同席の日程調整をする約束がされていたにも関わらず、その後進展がない
このような状況でお客様から「今は忙しい」というオーラが感じられると連絡することを躊躇してしまいがちですが、リマインドをしない限り状況は変わりません。
このような場合、「メールの件名」と「価値訴求」が突破口になります。
非常に忙しいことがわかっているお客様へお願いごとをする際に、まず考慮すべきは「お客様が何と比べているか」という視点です。お客様の目の前には、重要かつ緊急な事項が山積みになっている状況です。そんな中で、お客様は社外の営業からきたお願いごとと他のタスクを比較し、どちらを優先するかを判断します。
例えば、リマインドメールの件名が「XXプロジェクトお申込書の件」や「A常務同席アポイント調整の件」といったように用件のみだとお客様は件名をチラ見して「そういえば、あの営業と約束していたから対応しなきゃ」と一瞬思うかもしれません。しかし、「申し訳ないが、社内タスクの方が重要だから…」と未開封のままにする可能性が高くなります。
「未開封」の状態が数回続くと、お客様の心理には「開封(対応)しなかった自分」を正当化する心が働きます。そうなるといくらリマインドを送ってもお客様の「山積みの重要タスクが片付く」までは、営業からのお願いごとに対応する時間は生まれません。これはもう手遅れの状態であり、現実にはこのケースが非常に多く見られます。
リマインドメールの件名は具体的に
まずは手遅れの状態を防ぐことが重要です。そのためには、1回目のリマインドメールに特に注意を払う必要があります。多忙なお客様がリマインドメールを開封するための条件として、以下の2点が挙げられます。
- ①その営業に対して「借り」がある、もしくはポジティブな感情を持っている
- ②お客様にとって、読み飛ばさずに目を通す意味を持つ情報が件名に含まれている
①は「価値訴求力」の問題です。②にはいくつかの方法があります。例えば、件名に具体的な固有名詞や日付、お客様との会話に出てきたキーワードを入れることが挙げられます。
- 例):「●●様が9/28におっしゃっていた『XXX』の件」
本来、メールの件名は無駄な要素を省いた簡潔なものが望ましいですが、「営業からお客様へ送るリマインドメール」に関しては例外です。お客様との関係性が十分に築かれていない場合、簡潔なリマインドメールはスルーされやすく、時間が経つにつれてお客様の行動インセンティブは低下してしまいます。
例えば、申込書を早く頂きたい場合、単に急かすだけではなく「9/28のMTGで、●●様が『年内にクイックヒットの成果が欲しい』とおっしゃっていました。成果を年内に報告するには、逆算すると10月中旬には施策開始が必要かと…」といったように、申込書を急ぐメリットを明確にし、それを件名にも反映させることが重要です。
もしこれらの対策が間に合わず、単なるリマインドを数回送った結果、スルーされた状態になってしまった場合はどうするべきでしょうか。この状況を打開するには「別件での価値訴求」が有効です。具体的には、リマインド臭を極力消し、関係ないトピックでの情報提供を行うことが大切です。そうでないと、お客様はその後にメールを返信しづらくなってしまいます。
そのような場合、一旦は直接的なリマインドは控え、話題にも出さずに別件での「お役立ち情報」を提供し続けましょう。お客様から「お役立ち情報」に対して何かしらポジティブな反応があった場合(例えば、情報提供メールに返信があるなど)、すぐに電話して「情報がお役に立てて何よりです。ところで…」といった具合に話を展開し、間接的にリマインドをするのが効果的です。
件名が重要な理由
忙しい方はメールを読む人もいれば、ほとんど読まない人もいます。しかし、読まない方であっても件名だけは目に入るものです。メールをほとんど読まない方でも、読むか読まないかは件名のリストを見て判断しています。
買い手の立場になると、無難な件名の売り込みメールが多く届くことがあります。最近ではマーケティングやセールスの方々が様々な工夫を凝らして、新規のアポイントを獲得するためのメールを送ってきます。その中には、あたかも以前から約束されていたかのように見えるメールもあります。実際には面識がないのですが、メールを開くと「以前お話ししたアポイントの件」というような表現が使われているのです。もちろん、以前に話したことはないのですが、おそらくはメールを開いてもらうための工夫なのでしょう。
このように、嘘をついてアポイントにつなげるという手法が近年増えているようです。ただ、少し広い視点で考えてみると、この手法が生まれた背景には「件名が非常に重要である」という認識があるものと考えられます。件名が大切だからこそ、何とかして工夫を凝らそうとするのです。その結果、メールを開封してもらうためのさまざまな手法が生まれているのでしょう。
弊社としては嘘をついてアポイントを獲得する手法は推奨しておりません。しかし、件名は誠実な範囲でしっかり工夫するべきだと考えています。
例えば以前に話した内容であれば、その日時や話題のキーワードを件名に入れることでお客様に「これはあの件だな」と思い出していただけます。わざわざ考え抜かれた件名で送られてきたメールは、それだけ重要な内容であると相手に感じてもらえるはずです。
営業では「時間の大切さ」を意識しよう
お客様は過去に売り込みや提案を受けた体験を振り返ると、プラスの感情よりもマイナスの感情を呼び起こすことが多いです。そのため、営業は提案を受ける側の体験や感情をできる限り想像しながら行動する必要があります。この点については書籍『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)にも書いています。
忙しい人が最も嫌がるのは、自分が忙しいという状況を相手が気にかけないことです。弊社代表の高橋が新人の頃、新卒でコンサルティング会社に入社した際にマネジャーやパートナーからよく指摘されたのは「人の時間をもらうということは、それに見合う価値を相手に提供しなければならないということだ。そして、自分自身がその時間をもらうにふさわしい努力をしてから初めて、時間をもらうべきだ」ということでした。これはプロとしての心得であるということです。高橋はこの指摘から、「時間をもらう」という行為がどれほど重要かを学んだと言います。
それ以来、高橋は時間に関して非常に気を配るようになりました。他者の時間を大切にする姿勢は行動に現れます。それは意図的にするものではなく、本当に他者の時間を大切に思っていたら自然と滲み出るものです。
ただ、ここで気をつけるべき盲点があります。人は自分が体験した範囲でしか忙しさを想像できないということです。
例えば、非常に忙しい人をどれだけ想像しようとしても、自分が同様の経験をしていなければ、その忙しさを正確に理解することは難しいでしょう。
自分自身が非常に忙しい経験をしたことがある人は、忙しい人の背景や状況を比較的容易に想像することができるはずです。しかし、そうでなければ相手のリアルな状況に照らし合わせて「忙しい」という感覚を正確に想像することは実際にはかなり難しいことです。
そこで大事なのは、身の回りの忙しい人たちと関わることです。忙しい人たちと日常的に付き合っていると、その感覚が自然と身につきます。
例えばそれは日程調整をする際に候補をいくつ出すか、日程調整のメールにどのような内容を書くか、メッセージに一言添えるべきか、やり取りの往復を減らすための言葉をどのように選ぶか、といった細かい部分に現れてきます。これは、忙しい人たちと日常的に接していると自然と身に付くものです。誰もがそうしているので、自分もそのようにせざるを得なくなるのです。