「不毛な会話」は組織を見直すためのサイン
営業現場では上司と部下がお互いに不毛だと感じながらもなかなか無くならない会話があります。
- 「あの案件どうなってる?」(報告をめぐるすれ違い)
- 「なんでもっと早く相談しないの?」(手遅れの相談)
- 「今月、達成できそう?」(着地見込があてにならない)
これらの不毛な会話を無くす鍵は「見える化」にあります。
不毛な会話が無くならない原因には以下のようなものがあります。
- 見えるべきものが見えていない
- 優先順位の認識が揃っていない
- 大事なことが緊急対応に埋もれている
マネジャーは「不毛な発言が繰り返されている」と感じたとき、何かを見直す必要があります。
マネジャーの行動は以下の順番ですることが重要です。
- ①問題を認識する
- ②考える
- ③コミュニケーションする
しかし、①の手段が「メンバーからの報告」や「業績やKPIの集計表」だけになっていると、以下の点でつまづきがちです。
- 多くのメンバーは悪い報告をしたがらない
- KPIの集計を見ても、分析の仕方が分からない
営業マネジャーが①で「訪問件数が少ない」という問題を認識した後、「訪問件数を増やせ」と言うだけで終わりやすい傾向があります。不足した数字に対して直接的な指導をするだけで終わらせてしまうのです。しかし、これではメンバーは具体的にどう行動すべきか分からず、同じ問題が繰り返されます。
そこで、営業を「見える化」するためにSFA(営業支援システム)が導入されることが多いですが、多くのマネジャーは「数字の集計結果を見る」から先の使い方を理解していないことが多いです。
SFAは「ATM」の観点で活用しよう
効果的にSFAを活用するためには、以下の点をマネジャーが押さえる必要があります。
- どこを見るか
- どこで介入するか
- どう指示を出すか
- どう確認するか
そこで、ダッシュボードをATM(アラート、ターゲティング、モニタリング)の観点で活用することをお勧めします。
- アラート:要注意案件及び、停滞や抜け漏れ
- ターゲティング:優先順位の高い未アプローチ先リスト
- モニタリング:進捗や結果、比較分析
マネジャーは現場での確認や指示にアラートやターゲティングを使いつつ、モニタリングのダッシュボードを確認しましょう。
また、ATMダッシュボードは以下の点が機能しているか常に確認しましょう。
- アラート:黄色信号(これに注意)
- ターゲティング:青色信号(ガンガン進める)
- モニタリング:カーナビ(目的地への途中経過)
そして、以下の点を地道に繰り返していきましょう。
- マネジャー及びメンバーに使い方をレクチャーする
- 使いにくいダッシュボードを改善する
SFAのダッシュボード活用は一筋縄ではいきません。組織全体でのサポートが必要です。以下の図の7段階の中で特にSFA活用の成否を分けるのは①、④、⑤です。うまくいかない時は、以下の現象が起こっています。
- ①「会社から言われているので」の伝言ゲーム
- ④導入支援部署VS現場の対立
- ⑤形骸化した入力項目
SFA活用の成功イメージは「使いこなしている人(チーム)ほど成果が上がっている」状態です。縦軸に業績、横軸に活用度合いをプロットするとラグビーボールのような形状の分布になります。ここまでくると、「マネジャーとメンバーの間に起こる不毛な会話」は激減します。
SFAはあくまでも手段であり、目的ではありません。しかし、実際に使いこなす難しさの前にそのことをつい忘れがちになります。そこで、ダッシュボードの「ATM」を共通言語化することで組織全体の意思疎通がスムーズになり、やるべきことが具体的に明確化されます。
「営業の難しさ」に向き合うチームを作ろう
AMTダッシュボードは会社に合った形で作り込むことが必要です。この点については『無敗営業 チーム戦略 オンラインとリアル ハイブリッドで勝つ』(日経BP)の中でも詳しく説明しています。
AMTの3つの観点を押さえてダッシュボードを作成すれば、どのツールを使ってもある程度の「見える化」を進めることが可能です。
ただし、実際に「見える化」ができるかどうかは、他にも重要な要因が関わってきます。弊社は多くの営業組織でSFAの導入支援を行っていますが、「使いこなせない」という声をよく耳にします。その中で最も多いのは「入力の負担が大きい」というものです。
しかし、この「入力の負担が大きい」という意見は問題の根本的な原因ではありません。根本的な原因は、営業トップが営業の難しさに真正面から向き合わないことにあります。「営業なんて簡単だ」という認識では、せっかくの取り組みが上手くいきません。
営業組織は数字を追い求め、厳しいミッションに日々向き合っているチームです。そのトップに立つ方々は普通の人では乗り越えられないような壁を乗り越えてきた「超人」のような人が多いです。そのような人は多少商品が差別化されていなくても、戦略が明確でなくても、自分の力で売り上げを上げてしまいます。また、結果が出ない時期でも心が折れずに努力を続け、最終的には成功を収めてしまいます。
そうした経験を積んだトップの方々からは、よく「営業は特別なスキルや努力を必要としない。基本的なことをきちんとやればいい」という声を聞くことが多いです。確かにこれは正論であり、その気持ちも理解できます。
要するに、「商品がそれほど強くなくても、人から教えられなくても、やるべきことをしっかりとやっていれば売れる」という考え方です。実際、そのようにして成果を出してきた方もいるでしょうし、それは非常に貴重な経験だと思います。しかし、営業組織が大きくなるにつれて、現場の人たちにとっては、そのトップが言う「当たり前のこと」がもはや当たり前にはできないレベルのものに感じられることがあるのです。
成果を上げるには「具体的な指導」が重要
それでもなお、トップが「当たり前のことをちゃんとやれば売れる」と言い続けると、組織全体に「頑張りさえすれば売れる」という空気が蔓延します。そうなると、成果が出ない人は「努力が足りない」と見なされることが多くなります。なぜなら、「当たり前のことをやれば売れるはずだから、成果が出ないのは努力が足りていないせいだ」となるからです。
しかし、実際には営業組織の中で、本当に努力だけで成果が上がっているケースは少ないのではないでしょうか。例えばお客様のリストに恵まれていたり、既存のお客様を持っていて、それだけでそれなりの成績が上がる場合もあります。一方で、非常に頑張っているにもかかわらず、全く成果が出ないこともあるでしょう。
このような状況で、プロセスマネジメントやSFAの運用をしっかり行うと、営業活動のすべてが見える化されます。もし営業活動が完全に見える化されると、実際にはほとんど営業活動をしていなくても数字が上がっているケースが見えてくるかもしれません。また、営業マネジャーのマネジメントや指導の至らなさが露呈するかもしれません。
一方で上手くいっている部分やそうでない部分がすべて見える化されれば、そのデータを活用して成功している要素を分析し、うまくいっていない人に対して「こうすれば良い」と具体的に指導できるようになります。
「営業が面白くなる文化」を作ろう
弊社代表の高橋はSFAを非常に上手に使いこなしている会社の新人営業のデスクを1時間ほど後ろから見学させていただいたことがあります。その経験は今でも強く印象に残っているようですが、その新人営業が最も活用していたのは「検索機能」でした。
すべてのデータがシステムに入力されているため、例えば先輩方がどのような営業活動を行っていたのか、どのようなメールを送っていたのか、どのような資料を使っていたのかといった情報を検索することができるのです。その結果、新人でも成果を出すためのヒントが簡単に得られるようになっていました。
しかし、データがここまで整備されていると、新人にとっては大きな武器になる一方で、逆に仕事をきちんとしていない人の実態も明らかになってしまいます。そのような状況はあまり公には語られませんが、実際には自分の活動が見える化されることを不都合と感じる人が少なからずいるものです。そのためそういった人たちは「システムが使いにくい」などといったことを口にし、SFAに情報を入力することを避けようとするのです。
営業という仕事は決して簡単に成果が出るものではなく、当たり前のことをするだけでは不十分です。「当たり前のことをやれば成果が出る」といった考えにとどまっている限り、重要なポイントで思考が停止してしまう危険性があります。それを認識し、皆でその課題に取り組むことが重要です。
そうすれば、単純に「当たり前の努力をすれば成果が出る」という発想から、「うまくいっている人といっていない人の違いは何か」「お客様との商談現場で実際に何が起こっているのか」といったことをしっかり見極め、適切な対応を取ることが可能になります。そして、組織全体で学びを共有しながら、成果を出すまでの過程で出会う困難を皆で乗り越えていくことができるようになります。
営業の面白さや奥深さは、単純な努力と成果が必ずしも簡単に相関しないことにあります。この点を組織全体で共有し、「当たり前のことを頑張ればいい」というだけでなく、営業が創意工夫によって面白くなる文化や風土が組織に根づけば、それは非常に素晴らしいことです。
データを詳しく見ることで、多くの発見がある
「不毛な会話」はせっかく良いツールがあっても、それを十分に活用していないことが原因で発生します。SFAが導入されている会社を訪問し、営業マネジャーにブックマークを見せてもらうと、大抵の場合、売上の集計ページはブックマークされています。しかし、それ以外のより詳細な情報を確認するためのページはほとんど見ていないのです。
もしそのような詳細な情報を見ていなければ、「あの案件はどうなっているの?」というような会話がなくなることは難しいでしょう。
よく「データがちゃんと入力されていないと当てにならない」という意見を聞きますが、これは鶏と卵のような話です。たとえSFAに完全なデータが入力されていなくても、実際にデータを詳しく見ていくことで、いろいろと興味深い発見があるものです。
日常業務が非常に忙しいとまとまった時間を取るのは難しいかもしれませんが、時折、自社のデータをじっくりと見直すことは非常に重要です。特に決着案件を振り返ることは非常に大切です。最近の決着案件リストを見直すだけでも、多くの貴重な気づきが得られます。