決裁者に同席いただくためにはどうしたらよいか
今回は「『私も上司を連れていきます』がNG の理由」についてお伝えします。
「こちらも上司を連れて行きますので、お客様も上司(決裁者)を連れてきていただけませんか」というのが典型的な決裁者アポイントの取り方です。
ですが、お客様の上司からすると「上司を連れてくるから、そちらも上司を連れてきてください」というのはそれほどモチベーションが上がらないのです。「そんなのわざわざ自分が出て行くこともないだろう」ということですね。ただ体裁のために出て行くのは気持ちが上がりません。他にも、「年末年始に節目のご挨拶で」ということで時間を作るというのも、受け取る側としては「そんな暇はない」と感じるものです。
ですが、例えば「今ちょうど御社の情報収集しているトピックについて、貴重な情報がありますよ」と言われたらどうでしょうか?「それだったら、会いましょう」となるかもしれません。
あるいは、自社の課題に対して良い解決策があるらしいということであれば、時間を作ろうという気持ちになります。しかし、もしまだちゃんと信頼関係が築けていなければ、「それって本当?」という気持ちが湧くこともあるかもしれません。
1番強力なのは、信頼しているメンバーから「どうしても来てください」と言われたり、右腕として任せているメンバーの仕事に支障がでそうな状況であったりすることです。こうした状況下では、「今すぐ行く」ということになるでしょう。決裁者アポイントでお客様の上司(決裁者)のアポイントを取りに行くときには、その方の右腕となる方をしっかり押さえましょう。
メンバーの仕事の「難易度」には要注意
弊社代表の高橋はよく「難易度」の話をします。難易度が高すぎることをやり続けていると結果は出ません。組織を束ねる立場の方はメンバーが難易度の高いことをやり続けている状態にならないよう注意する必要があります。あまりその状態が続いてしまうと、メンバーは無理をして壊れてしまうこともあります。
そこで、最終手段として例えば値引きでクロージングとか、上司を連れてきて決裁者アポイントを取るのは問題ありません。それはある程度、必要なところもあります。
ただ、それに依存してしまうと、やはりそれしかできなくなってしまいます。値引きでクロージングとか、上司を連れてきて決裁者アポイントを取る以外のやり方がわかりません、となってしまうと問題があるでしょう。
高橋は20年ほど前に初めて営業として働き始めた時を振り返ると、一定の難易度で仕事をすることが自分自身の成長につながると感じた、と言います。その当時、高橋は知名度の低い誰も知らないような会社で、一部上場企業に対してアポイントを取り、受注を目指していました。
この経験は、高橋を高いレベルで成長させてくれたようです。
しかし、このような高い難易度がいつも良いわけではなく、バランスが大事です。例えば決裁者アポイントを取るということでいうと、最後の手段として上司を連れて来るというオプションがありますが、極力それに頼らずに営業活動を進めるのが理想です。「切り札的なものはあるものの、ギリギリそれを使わないで頑張る」ということを自覚的にやっている状態は、営業のスキルが非常に向上するのです。
「欲しい!」と言っていただくために必要な3つの要素
ただ、マネジャー側としては、このバランスを保つことはコントロールが難しいものです。その1つの解決策として、高橋は以前「お客様から明確に『欲しい』と言われるまで見積もりを提示しない」ということをやっていました。
お客様から「いくらですか?」と聞かれても明確な価格は伝えず、一定の範囲内での価格であると伝える程度に留めていました。このようなアプローチにより、お客様から明確な購買意欲が見られるまで価格交渉を開始しないようにしていました。
これにより、確かに商談数は増えましたが、具体的な見積もりを出せるケースは少なくなってしまいました。しかし、それによってお客様からの「ほしい」という明確な意志を引き出すために多くの工夫をするようになったと言います。
このプロセスを通じて強化されたのは「価値訴求力」です。価値訴求力とは、お客様の期待心理を高め、自社が提供できる価値を明示する力です。この価値訴求力を高めるためには、お客様の抱える課題や悩みを正確に捉え、それに対する解決策を提示することが重要です。 その際、1番重要なのは「お客様の課題やお悩みを的確に言い当てる精度」です。そしてお客様の課題やお悩みに対して、「こうしたらうまくいきます」という「的確なアイディア」を提示します。さらにそれは、「意外性」がある必要があります。簡単に思いつくアイディアでしたら、他に提供できる会社がいくらでもありますから、響かないですよね。
「お客様の課題やお悩みを的確に言い当てる精度」、それに対する「的確なアイディア」、そしてその「意外性」の3つをしっかり揃えるとお客様は必ず興味を持ってくださいます。
事例を効果的に使い、興味や共感を引き出す
「このようなことが、一度にできるのだろうか?」思われる方もいらっしゃるかもしれません。そこでどんなやり方をするかというと、事例を出すのです。
「御社に当てはまるかどうかわかりませんが、最近担当しているお客様でこういうケースがよくあるのです」と言って、事例を出しましょう。その目の前のお客様の課題と、事例の話を意図的に合わせにいくのです。
「その課題、うちもそうなんですよ」と言っていただけることが、先ほどの「お客様の課題やお悩みを的確に言い当てる精度」になります。その次に「当社はそれに対して、こういうサービスを提供しております」とその課題に対する「的確なアイディア」を出し、「実はそれは、こういうところがみそなんです」とその「意外性」を伝えるのです。
事例紹介のときには、この3つを意識をするようにしましょう。もしそこにお客様の良い反応がなければ、2つ目の事例を出すのです。もしそれでも良い反応が得られなければ次の事例を出し、お客様から「これ、うちでもできるんですか?」という意思表示をいただけるまで続けましょう。それまでは見積もりは出さないようにします。そうすると徐々に、反応が目に見えて変わってくるタイミングがあります。
終わってみると、価値訴求力が非常に鍛えられているでしょう。ここまでいけば、決裁者を呼んでいただくのはそれほど難しくなくなっているはずです。お客様の方から「いや、ちょっと上司を連れてきます」と素直に言っていただけるようになります。
余裕があるときに、このテクニックを是非試してみてください。ただし、さすがに目の前の数字が足りないときにやっている余裕はありませんので、あくまでも余裕が生まれたら、そのチャンスを逃さずに試してみるのがおすすめです。