「認識のズレ」はなぜ生まれるのか
今回は「お客様との認識の合わせ方」についてお伝えします。
営業に携わる多くの方が「お客様から信頼されたい」と日々試行錯誤されているかと思います。そのためには「認識のズレ」が生じないようにすることが重要です。
営業支援の現場に行きロールプレイを行うと、以下のような確認の問いかけをされる場面に多く遭遇します。
- ●●についての認識は合っていますか?
- ●●という理解で合っていますか?
- ●●のように整理してみましたが、違和感はありませんか?
この問いかけに対して、多くのお客様は「はい、そうです」や「大丈夫です」と返答されます。このやりとりこそ、認識のズレを生じさせてしまうやりとりなのです。
資料を必死に作っていったのに、実は全くお客様との課題認識がズレていてご期待に応えられない上に、自身は無駄なエネルギーを消費してしまうという状況に陥ってしまいます。
なぜ確認したにもかかわらずご期待に応えられないのでしょうか。その理由は以下のように考えられます。
まず、大前提として人は異なる背景や価値観を持っており、自分とは異なるお客様の考えを100%理解することは現実的には難しいのです。だからこそ、お客様との認識を完全に合わせようとするのではなく、「ズレるものである」と捉えて行動する必要があります。
また、お客様がご自身の課題について正確に認識し、正確に課題を営業に伝え、営業もお客様から得た情報を正確に受け取り、言語化して確認するという一連のフローが行われる確率は非常に低いということも覚えておきましょう。
具体的な言葉を使って課題を明確にする
では、どのような問いであれば「ズレ」を防ぐことができるのか、具体的な会話を使って説明します。
営業パーソン
お客様の課題は、業務の効率化で合っていますか?
お客様
はい、そうです
営業パーソン
お客様としては、「人員を少なくして業務を回したい」のか、「全体のコストを下げたい」のか、どちらに近いでしょうか?
お客様
コスト削減ですね
営業パーソン
それは、どういう意味ですか?
こちらの会話では、以下2つの観点からアプローチをしています。
- AとBのうち、どちらに近いかを問う
- 選んだ方について、なぜそう考えたのかを問う
こうすることで、お客様との対話を通して課題を探るだけでなく、お客様自身も自分の言葉で語る中で納得していきます。
つまり、「課題は合っているか?」と確認するのでなく、「どういう考え方でそれが課題だと感じたのか?」を深堀りすることで、認識のズレを減らし、双方でお客様の課題を深く理解していくことができるのです。
「わかってくれる営業」は何が違うのか
このアプローチで大切なことについて、さらに詳しく解説します。
「AかBかを問う」という手法では、仮説について深く考える必要があります。事前にお客様のことを調査し、想像し、社内の事例を調べ、仮説を立てるといったプロセスがあるからこそ、的を得た「AとBとではどちらに近いですか?」という質問を投げかけることができる、ということを忘れてはいけません。
これは「お客様のことを徹底的に考え尽くす」という姿勢が基盤となっています。こういった姿勢を終始商談において示すことで、お客様が求めている「わかってくれる営業」になることができ、極端な話、提案を出す前にご発注いただくこともあり得るのです。「AかBで言うとどちらに近いですか?」というような質問はあくまでテクニックですので、お客様のことを理解しようとする姿勢だけは一貫して持ち続けるようにしましょう。
お客様との確認や合意が得られた後も、お客様の課題を探求し続けてください。
提案の途中段階で理解を止めてしまうと、お客様側から見れば、「結局、自分を理解しようとしない人だ」という印象になり、購買の意思に大きく影響してしまいます。受注した後も、理解の努力を続けることで、お客様との信頼関係はより強固なものとなり、リピーターとなっていただけるようになります。
最も重要な「お客様をきちんと理解しようとする姿勢」
お客様を理解し続けるために有効な「深堀り」にもポイントがあります。
弊社がご支援している営業現場では、お客様から気になる発言が出た際、軽く深掘りをしただけで次の話題へと話を進めてしまう方がいますが、さらに堀り下げることをお勧めいたします。
特に若手の営業は何か提案しなければいけない、何か効果的なものを出さなければいけないと焦るかもしれません。しかし、弊社の感覚では提案を焦って出すよりも、理解しようとする姿勢こそが重要で、その中で自然に身体から出てくる一言の方が、お客様の心に響くことがあるのです。
ズレた提案をしてくる営業が多い中で、きちんと理解しようとする姿勢こそ、お客様にとって価値がある営業だと感じていただけます。
マネジャーの方も是非この点を踏まえ、お客様の理解を深めることを目的としたロールプレイができる環境を作っていただければと思います。