「5つの問いかけ」で仮説の理解を深めよう
営業組織のマネジャーの悩みとしてよく出るのは、「部下が仮説をうまく立てられない」ということです。営業の若手からも、この課題に対する相談が非常に多く寄せられます。
「どうやって仮説を立てたらいいのか、よくわかりません」という相談を多く受ける中で、仮説という言葉を具体的にする必要性を感じました。これを踏まえ、仮説の理解を深めるステップとして「5つの問いかけ」に分解しました。
仮説の理解を深める5つのステップ
- ①お客様の「表面的な要望」と「真の課題」
- ②お客様が過去に試みたこと
- ③お客様が成功するまでのステップ
- ④当社製品が選ばれる理由
- ⑤起こったら困る最悪な反応と対策
具体的に説明します。
1
お客様の「表面的な要望」と「真の課題」は何ですか?
多くの営業は、お客様からの言葉をそのまま受け取る傾向があります。これでは単なる御用聞き営業にしか育ちません。マネジャーが、お客様の「表面的な要望」と「真の課題」の違いを問うことで、真の課題に対する嗅覚を上げます。
2
お客様がその課題を解決するために、過去に試みていそうなことを3つ挙げてください。
いきなり自社製品の提案に移ると、営業都合のプレゼンテーションになりがちです。お客様が過去に試みたことを予想し、「それらがうまくいかなかった本質的な理由」を考察すると良いでしょう。
3
お客様が成功するために、当社製品抜きで今後数か月間でどんなアクションが必要か5つのステップを挙げてください。
営業が仮説を立てられない理由は、お客様が成功する算段を描いていないからです。「当社製品を購入していただければ課題は解決します!」というプレゼンテーションでは信憑性に欠け、お客様には響きません。
4
その5つのステップに対して、「なぜ今、他の手段ではなく当社製品が良いのか」を説明してください。
当社製品が選ばれる理由を明示するには、「これまで課題が解決されなかった原因」を踏まえた上で、「成功へのステップにこのようにお役立ちできます」とクリアに伝える必要があります。ここで初めて当社製品を紹介します。
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その説明に対して、「起こったら困る最悪な反応」と「お客様の反応にどう対処するか」を具体的な台詞で書いてください。
提案の準備は悲観的に行います。最悪の反応を事前に考え、実際の商談で混乱しないようにすることが重要です。後者の「その反応にどう対処するか」は、抽象的な方針ではなく、具体的な台詞で書いてもらいます。
この5つの問いかけに対してしっかり答えられるように考えていけば、仮説がうまく立てられていると言えるでしょう。
関心を持っていただくために営業がすべきこと
仮説の重要性を理解したとしても、仮説をうまく立てられるようになるには段階があります。そこで、仮説を立てる力がどう上がるのか、特にその初期段階に焦点を当てて考えてみたいと思います。
仮説を立てられるようになるためには、小さなリスクを取る体験を重ねることが必要です。
例えば、お客様に対して商談で資料を使う際、ただ資料に書いてあることを読むだけのプレゼンテーションでは、お客様には優れた営業とは思ってもらえません。しかし、お客様の課題に対して「もしかしたら、こういうことでお悩みなのでは?」と提案すると、お客様からの反応が変わります。
課題がうまくはまる瞬間や、「こうしたら成功するのでは?」というアイディアを共有した時、お客様からの同意を感じたり、サービスを紹介した際に「これを待っていた!」といった熱い反応を得られることは、非常に気持ちの良いものです。
しかし、そのような状態になかなか至らないと困惑することもあるでしょう。正解が分からないまま立ち止まってしまうと、商談が進展しません。
一方で、お客様に対して「この課題はこうでしょうか?」と提案するのは、少し怖いものがあります。お客様に対して、「もしかしたら、こういう方向性はいかがでしょう?」と提案する際に、それが他の営業からはあまり聞かれない、優れたものであるべきです。しかし、そういった提案は簡単には出てきません。
そのような際には、最近の商談でのエピソードを引用するなど、他の会社を例に出して話してみましょう。そして、それをなるべくカジュアルな雰囲気で、半分雑談のようにお話しするのがポイントです。
できるだけカジュアルに、半分雑談的に話す方が、その後の対応がしやすいです。お客様に関心を抱いていただいたら、その部分を詳しくお話しすれば良いでしょう。
重要なのは、お客様との対話を深め、共感を育むこと
言葉の選び方や伝え方には工夫が必要です。伝えにくいことでも、枕詞を添えることにより、お客様に対して説明しやすくなります。お客様の課題の仮説だけでなく、具体的な行動の仮説もあわせてお伝えするようにしましょう。
結局、商談の成功には、お客様の課題に対して柔軟に対応し、時には小さなリスクを取りながらも、確実に信頼を築いていく姿勢が求められるのです。その過程で、お客様との対話を深め、共感を育んでいくことが大切になるでしょう。
仮説を立ててお客様にご提案した際、お客様の反応は大きく2つに分かれます。1つは共感を示していただけるケース、これはそのまま進めていくのが良いでしょう。
しかし、時に「うちとはちょっと違う」という反応をされることがあります。
特に若手の営業は、このような反応にひるんでしまうかもしれません。しかし、そういう時こそチャンスだと捉えて、深掘りし、もう一度話を聞くことが大事です。
お客様が「うちとは違う」と感じた場合でも、違いを理解し、詳しく聞く姿勢を見せることで、お客様は協力的になってくださることが多いのです。
またこのような反応をされた際に使える具体的なセリフを事前に用意しておくと、商談の場で慌てることもないでしょう。
仮説の質を上げていくには、マネジャーからの問いかけも大事です。
仮説を立てる際には、少ないヒントから正解を当てにいくのではなく、お客様が仰った言葉を軽く要約してお伝えするだけでもお互いの理解を深めることにつながることがあります。難しく考えすぎず、シンプルに進めることが営業にとって一番重要なのかもしれません。