反応やリアクションの薄いお客様への対応
営業の方から「反応やリアクションの薄い顧客に対してどうしたらいいか」という相談をいただくことがあります。いくら熱心に説明してもそっけない返事だったり、「ご質問はありませんか?」と聞いても「大丈夫です」と即答されてしまったり……。
このタイプのお客様に苦手意識を抱える営業の方は多いでしょう。解決のキーワードは「ズレの解消」と「二人三脚」の2つです。
当社代表の高橋にも、こんな経験がありました。今から15年以上前のことです。一部上場企業の人事課長との商談をした際に、熱弁をふるい、サービス紹介をしたものの「…はい。ありがとうございます」の一言しかいただけませんでした。
高橋
ご質問はございませんか?
お客様
いえ、大丈夫です
高橋
では後ほど追加の資料でも…
お客様
あ、大丈夫ですよ
…高橋はこのままでは終わってしまう、と焦ったと言います。
あきらめ悪くあがいたものの、いくらがんばってもらちが明かず。当初17~18時で予定されていた商談は、18時を少し回ってしまっていました。
高橋
時間を過ぎてしまい申し訳ございません。金曜日の夕方なのに
と謝った高橋に対して返ってきた答えは驚くものでした。
お客様
いえ、仕事は大丈夫ですよ。ただ、週末は大会なので…
高橋が思わず「何の大会なのですか?」と聞いたところ、紙飛行機の全国大会とのことでした。正直、大変失礼ながら「このエリート然とした人事課長が…紙飛行機大会!?」と思ったものの、「紙飛行機の全国大会なんてあるのですね」と返したところ、場の空気が一気に変わりました。
それまで表情のなかった人事課長が、目を大きく見開き、「昨年は、本当に惜しかったんですよ!今年はかなり練習したので…」と、高橋のサービス紹介の何倍も熱いトークを繰り広げられました。
お客様の頭の中をのぞく
気がつくと、紙飛行機の話で30分も経っていました。高橋は帰宅してから紙飛行機について検索し、その奥深さに驚いたと言います。
思わず高橋が紙飛行機のことを調べてみた感想を人事課長にメールしたところ、大会の結果を教えてくださることになり、次回のアポも取ることができました。
人事課長は残念ながら大会では負けてしまいましたが、高橋は受注をいただきました。
ここでの学びは何と言っても「こちらがいくら一生懸命サービス紹介をしたところで、相手は全然違うことを頭の中で考えている」ということでした。それ以来、高橋は反応の薄いお客様に対するアプローチを変えることにしたと言います。
反応やリアクションが薄いお客様は、いったい頭の中で何を考えているだろう。自分には想像がつかない何かがあるのだろう、と思って商談に臨み、「何が相手の関心事なのか」を聞くようにしたのです。
しかし、仕事における別の関心事は普通に聞けば良いのですが、商談の場でプライベートの話は聞きづらいものです。そこで、暇そうなお客様にも、あえて「お仕事が大変なところ、わざわざお時間いただき…」という枕詞をつけるようにしました。
すると、仕事以外のウェイトが高い方は「いえ、そんなことないですよ」と返してくることがわかりました。そこを狙い、「仕事とプライベートのバランスが取れていて羨ましいです。ちなみに…」と切り込みます。
そのうち、あることに気が付きました。
一見するとこちらの提案に関係なくとも、相手の関心事を深掘りしてお伺いした後は、こちらの話に耳を傾けてくれるようになり、なぜか商談の温度感も上がるのです。
どんな人でも「わかってほしい」という心理があります。それは目の前のお客様も同じです。高橋はこのことから、まずは相手を理解するのが大事であることを学んだと言います。
一方的に話すのを辞め、二人三脚で商談をする
相手を理解するということは非常に重要です。これにより、ズレをかなりの程度解消できるようになります。それでもお客様のリアクションが薄くなるときは「こちらに言えない本音があるとき」か「お客様がこちらの話していることについて来れていないとき」でしょう。
重要なのは「二人三脚」の考え方です。
二人三脚商談においては、一方的に話しすぎないことが重要です。話しすぎた瞬間に「ちょっと違うな」と感じたお客様の心は離れていきますし、考えが追いついていないお客様は「ひとまず後で考えよう」となります。
ちょっと話したところで間を取り、相手に問いを投げかけましょう。しかし、「ご不明点はないですか」という質問は避けた方が良いです。なぜなら、「特に無いです」という答えを誘発しやすいからです。
- 「他のお客様からはこういう声もお聞きしますが、御社ではどうですか」(条件付きオープンクエスチョン)
- 「AとBとではどちらに近いですか」(選択肢付きクローズドクエスチョン)
で聞くのが基本型だと覚えておきましょう。
お客様が「特にありません」という薄いリアクションを返してくるとき、その直前の質問は「薄いリアクションを導きやすい聞き方」になっていないでしょうか。
お客様の意見を引き出しながら、相手のペースに合わせて伴走しつつ、一緒に考えていくことが重要です。それによってお客様の温度感も上がってくるでしょう。
時には提案を脇におき、お客様の状況を深く理解する
他にも、お客様の熱量が高くない場合、今いない第三者を引き合いに出し、その人との関係について聞くという方法も有効です。
例えばお客様の温度感が低く、響かなそうだと感じたとき、お客様の上司の方についてお話を聞くのです。
上司が興味を持っているものの、お客様の関心が薄い場合は「上司の方はどういうセリフでおっしゃっているんですか?」と聞くことで、話を進展させることができます。
話を進めていくと、実は上司もお客様もこの案件にそれほど関心がないことがわかる場合があります。他のことが手一杯で大変だということであれば、一旦自社で提案しようとしていたことを脇に置いて、お客様の状況を深く理解してみましょう。「もう少しその状況を伺ってもよろしいでしょうか?」とアプローチするのです。
そうすると、提案からは一旦外れてしまうかもしれませんが、お客様の状況については詳しく聞くことができます。ただ、それだけでは商談のチャンスがなくなってしまうかもしれませんので、最後に「どうすれば当社はお役に立つことができるのか」と具体的に聞いてみましょう。
「本日の商談を断っていただいてもおかしくなかったのに、お時間を作ってくださったのは、何かしら当社がお役に立てる可能性があるのだと感じます。今すぐではないかもしれませんが、将来的に何かお手伝い可能なことはございますでしょうか?」と尋ねることができます。
このとき、既にお客様から他の関心の高い出来事について深く聞いた後だと、よい返答をしてくださることがあります。
今回お伝えしたことを通じて、お客様の興味や関心を引き出すようにしましょう。お客様ごとに合わせたアプローチで信頼関係を築いていくことが重要です。