営業が初回訪問で聞くべき2つのこと
営業の初回訪問で「御社の課題は何ですか?」と質問すると、お客様から白い目で見られることが多いです。あまりに平凡な質問だからです。反対に、「御社はこれが課題なのでは?」と当て推量をするのも避けるべきでしょう。
「課題に対してこれまで取り組んできたアクションとその理由」を理解するための問いを投げかけると、初回訪問の質が向上します。
営業が初回訪問で聞くべきことは、以下の2種類です。
- A:見積や提案を出すために必要な情報
- B:お客様のことを真に理解するために必要な情報
多くの営業は、Aのみを収集し、提案を作成してしまいます。この結果、浅い内容の提案に終わり、お客様からの不満を引き起こすことが多いです。
では、Bについてはどう取り組むべきなのでしょうか?
もし、お客様が他の手段で課題や悩みを既に解決していたら、自分の前には現れないはずです。「他の手段では解決しきれなかった何かがある」から、訪問の時間を頂いているのです。知りたいことは以下の2点です。
- なぜ、これまで弊社と出会わなかったのか?
- なぜ、このタイミングで弊社と出会ったのか?
お客様の課題の本質の探り方
しかし、過去に出会わなかった理由や現在出会った理由を直接に聞いても、お客様は困惑するでしょう。そこで、「お客様が、これまでにどういうアプローチを取ってこられたのか」の「ヒストリー」を探ることが重要です。事前に調査できることはもちろん、調査した上で核心を突く質問を投げます。
「お客様は、これまでAのアプローチを取られたということですが、なぜBのアプローチは選択されなかったのでしょうか?」という質問は、お客様の価値観が反映されるので効果的です。
「候補に上がったが選ばれなかった選択肢」を聞くことで、お客様の課題、リソース、組織のネックが明らかになります。非言語的な情報にも注目し、大きなヒントを見逃さないようにすることが大切です。
「何かやらないといけないと思っています」と口にされるお客様でも、本当に動く意志がない場合もあるため、注意が必要です。その場合、若手の営業が「提案のチャンスがある」と頑張っても、案件は流れてしまうことが多々あります。お客様の本気度の判断は、提案をしてからでは遅いのです。
成功の可能性が高いのは「お客様が過去に選ばなかった選択肢に対し、本当はそれをやりたかったができなかった理由があり、今回の弊社の提案でそれを解消できる」とお客様に感じて頂けたときです。テンプレートのヒアリングをするだけでは、この瞬間は訪れません。初回訪問で深い理解を得るための工夫が求められます。
お客様の歴史を無視しては、真の解決策にならない
皆さんも、物事を選ぶ際にどのような意思決定のプロセスがあるのか、考えてみてください。もちろん、選ばない理由でも問題ありません。これらの「理由」は明確な判断基準を示しており、営業にとって重要な情報となるでしょう。
この話の背後には、営業の局面で非常に役立つ考え方があります。例えばIT製品の提案場面での例を考えてみましょう。お客様から「うちはまだアナログだから……」といった言葉を耳にされる機会は多いのではないでしょうか。
「だからこそ、ITで業務効率化しましょう」と提案するのは一見合理的ですが、少し待って考える必要があります。お客様が、過去にペーパーレス化や効率化に取り組んでこなかった理由を確認することが重要なのです。お客様が紙を使っている現状には、何らかの理由があったはずです。それを無視して提案している営業は非常に多いです。
ここに至るまで、その状況を何とかしようとした人がいたはずです。その歴史を無視しては、真の解決策にはなりません。お客様の過去の経験を理解し、その上での提案が求められるのです。
この視点から営業を進めることで、お客様の真のニーズに寄り添い、効果的な提案ができるでしょう。過去にお客様が選ばなかった選択肢からの学びを、今後の営業戦略に活かしましょう。
しかし、同時に認識しておかないといけないことがあります。
現場の営業が改善案を持っていても、経営層の承認が得られないケースが多いということです。その問題が未だに解消されていないという事実は、お客様が何らかの理由で取り組むことができなかった、あるいは以前の試みが失敗に終わったという背景が存在する可能性が高いからです。
仮に、過去にお客様の企業内で非効率な業務を改善しようという動きがあったものの、最終的に否決されたとしたら、その時提案された内容や金額、提案者、理由、提案の繰り返し回数、それが1回限りの提案だったのかどうかなど、多角的な情報を理解しておくことが非常に重要です。
押さえるべきは、お客様の判断軸の優先順位
しかし、多くの営業は、お客様が業務に非効率性があると認識した瞬間に、すぐに効率化の提案をしてしまいます。その結果、組織全体が動くことが少ないのです。
お客様が過去にどのような判断を下したのか、その経緯や背景を深く理解することで、より精度の高い提案が可能になるのです。
さらに、お客様が選ばなかった選択肢についても詳細に尋ねることで、より深く会話を進めることができます。例えば、お客様が複数の選択肢の中から1つを選ぶ際には、多くの迷いや取捨選択が存在します。その選択の中での悩みやカットについて深く理解することが、お客様とのより良い関係性を築くために重要です。
選択の背景には、お客様がどのような判断基準を持っていたかが関係しています。
複数の選択肢から選ばれた1つと、選ばれなかったものの違いを理解する際には、その判断軸の優先順位を念頭に置いておくことが必要です。例えば、その1つが価格でしょう。価格が理由で提案が拒否されたという営業に対して、弊社がいつも推奨するのは「価格以外の判断軸をより重要視しましょう」ということです。
お客様が金額など目に見えやすい要素に注意が向きやすいのは一般的なことです。だからこそ、この現象の背後にある根本原因を考えてみると、お客様が商品や営業に対して大きな期待を抱いていないことがわかります。要するに、「どこの会社に頼んでも同じだろう」といったように、特別な期待を抱いていないからです。このような状況では、お客様は安くしてほしいと感じるようになるでしょう。
価格以外の判断基準をたずねよう
では、どうすればこの状況を改善できるのでしょうか。弊社は、お客様に対して他の営業がしないような体験を提供することが重要だと考えています。
例えば、「他の営業はこういう質問をしてこなかったのに、この営業はちゃんと聞いてくれる」といった体験をお客様に感じてもらうことが重要です。その結果、お客様に健全な興味や好奇心を引き出すことができます。そうすることで商談を進めやすくなり、価格だけで判断されることを避けることができます。
弊社代表の高橋による著書『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)の冒頭で引用している引越し屋さんのエピソードは、この点を非常によく示しています。3社の引越し屋さんとの面談で、最初の2社は通常の見積もりでしたが、3社目の方は「弊社は何番目ですか?」といった独特な質問をしてきました。この一言で、彼がお客様の比較検討を押さえながら提案活動を進めていることがすぐにわかり、高橋は興味を惹かれたと言います。
お客様が複数の選択肢の間で迷った場合には「どこを見て判断されますか」といお伺いしてみてもよいでしょう。例えば、「同じ価格の提案が2つ来たら、次に何を見て判断されますか?」と聞くことで、価格以外の判断基準を暗に尋ねることができます。
他社からお客様が過去に選ばなかった選択肢について聞くことも可能です。その情報からお客様に仮説をぶつけることで、価格以外の判断基準について確認することができます。
このような工夫は、日頃の商談でも容易に取り入れることができます。些細なことでも、お客様に対して違った視点や体験を提供することが営業の成功へのカギです。