「ポジティブな予定外」を生み出そう
今回は「予定調和ではない会話がお客様との関係を深める」についてお伝えします。
営業において「お客様の発言を深掘りせよ」と言われますが、「どこまで深掘りしたらいいのかわからない」という相談をいただくことがあります。深掘りの基準は「実はここまでお話するつもりではなかったのですが…」という、「ポジティブな予定外」を表す発言がお客様から出てくるかどうかです。この発言が、1つの境界線と言えます。
まず、お客様には「だいたいこういうことを聞かれるだろう」という「想定」があります。そのため、定型的なことだけをヒアリングする「テンプレート商談」では想定の枠を超えられず、商談の温度感も上がりません。
営業パーソン
御社の課題はなんですか?
お客様
それはですね…
営業パーソン
ではその課題に提案を考えてきます
なぜお客様は「ヒアリングが不十分」と感じるのか
実際に調査をしたところ、以下の項目について「ヒアリングが不十分」と感じているお客様が多いことがわかりました。
- 会社が求めていることや目指している方向性(66%)
- 会社が困っている課題や悩んでいること(52%)
しかし、こういったことはどの営業も聞いているはずです。それにも関わらず「ヒアリングが不十分」と感じているお客様が多い理由は、「ちょっと聞いてわかったつもりになっている営業が多い」ということです。
そのため、ヒアリングが浅くならないよう、深掘りする質問を投げかけていきましょう。
深掘りする質問の一例
「ヒアリングが不十分だ」というお客様の不安を軽減するために、議論を深めるための質問を心がけましょう。
- 「もう少し詳しく伺ってもよろしいですか?」
- 「…と、おっしゃいますと?」
- 「具体的にはどういうことでしょうか?」
- 「それはなぜなのでしょうか?」
- 「他にもありますか?」
「ここまで聞いた人がいなかった」領域に到達しよう
このような質問をして会話を掘り下げていくと、そこで「ここまでお話するつもりはなかったのですが…」という台詞が出てきます。
お客様
すみません、弊社の中の話なのに…。社外の方にお聞かせすることじゃないですよね。ここまでお話するつもりはなかったのですが…
この「ここまでお話するつもりはなかったのですが」という台詞が、「ここまで聞いてくれた存在は他にいなかった」という証拠です。この台詞がでてきた時は、不思議とお客様の表情は晴れやかです。
多くのお客様は「営業が丁寧に話を聴いてくれる」という期待を持っていません。「せいぜい、提案や見積を作るためのヒアリングはするだろう」くらいが標準的な感覚です。そのため「しっかりと理解するまで丁寧に聴く」という姿勢は、お客様の心を動かします。その結果として「ポジティブな予定外」を表す発言が出てくるのです。
高い成果を上げている営業は、雑談を重視している
最近は特にオンライン商談が多くなっていることで、お客様との自然な会話が減ってきたようです。オンラインだと無意識に無駄な会話を減らしてしまう傾向があります。対面の商談でもマスクをしての会話だと、相手の表情も読みづらく、自然な雑談がしづらくなっています。
しかし、弊社の「営業1万人調査」によると、「雑談」は高い成果を上げている営業が重視している要素の1つです。
では、どうすれば雑談を増やし、より自然な会話ができる雰囲気を作ることができるでしょうか?
弊社代表の高橋が実践している方法としては、商談の冒頭で最近気になっていることや仕事に関連する興味深い話題を投げかける、というものがあります。これがいわゆる「話のつかみ」です。
トピックの選び方にも工夫が必要です。お客様が全く興味を持っていないような話題を持ち込んだら、会話がすぐに終わってしまいます。ここでのコツは、仕事とプライベートの間にあるような話題をうまく織り交ぜることです。
商談の最中、営業はしばしば効率を極端に追求してしまいがちです。つい「無駄話は省き、受注に集中しよう」と考えがちですが、この進め方には1つ大きな問題があります。それは、「お客様の感情がほとんど揺さぶられないこと」です。感情が動かなければ、当然「買いたい」という気持ちも出てきません。結果として商談が停滞してしまいます。
会話が逸脱しても、流れに身を任せる
高橋は、例えば午後に会うお客様に対しては、午前中に面談した別のお客様とのエピソードを匿名化して共有することがあります。それによって「それ、私たちも同じような状況なんです」といった新しい会話の展開が生まれる可能性があります。
このような話の脱線があると、「商談の本筋に戻らなければ」と考える営業も多いでしょう。しかし、その話の脱線にも意味があります。お客様も純粋にビジネスの話だけをしたいわけではありません。人としての会話を求めているのです。
その理解に基づいて、高橋は商談の際にも流れに身を任せるスタイルを採用しています。その後に、その話の逸脱が何を意味していたのかを振り返り、次のお客様との商談に生かしていく、というのが高橋の基本的なアプローチです。
ビジネスの現場で避けられないのは、上司と部下、マネジャーとメンバーという垂直の関係性です。この関係性があると、メンバーは時に自由に話すことができないと感じることがあります。特に同行の際に、若手のメンバーは「上司がいる商談で自由に会話をすると、後でなにかを指摘されるのではないか」と、遠慮してしまうことも少なくありません。
高橋がマネジャーとして特に注意しているのは、会話の「拡散度合い」を適度に保つことです。それが組織内のコミュニケーションをスムーズにし、士気を高めるからです。
メンバーが個性を発揮し、自分らしさを出せる場作り
特に若手の営業は自己表現に苦しむことが多いです。「自分のコミュニケーションの取り方は、営業としては良くないんだ」と自分自身で思い込んでしまっていることが多いのです。例えば、お客様との距離感を自然に縮める力があるにも関わらず、上司から「正しい言葉遣いをしなさい」「そんなに馴れ馴れしく喋るな」と言われ、自分が本来持っている力を抑え込んでしまうことがあります。
このような自己制限は、特に若手メンバーが自分の力や個性を十分に発揮できない大きな障壁となっています。マネジャーとしてはメンバーを型にはめすぎるようなことはせず、これらの思い込みを取り除き、個々のメンバーが自分らしさを出せるようにサポートする必要があります。
特に若手メンバーに対しては個性と自由なコミュニケーションがどの程度許されるのかを話し合うようにしましょう。それが、より健全な組織風土と高い業績を生む鍵となります。