営業をしている中で、お客様に商品を説明するつもりが、商品を買ってもらうために説得していた……という方もいらっしゃるのではないでしょうか。しかし、説得する=受注につながるとは限りません。 むしろ、お客様を「説得」してしまうと受注率が落ちる恐れがあります。
認知的不協和とは
心理学で「認知的不協和」という言葉があります。
例えば、「最近ちょっと太ってきちゃったから食べるのやめないといけないな」と思う人が、二つの思いを抱いたとします。
一つは「痩せなくちゃいけない、食べるの我慢しなくちゃいけない」という思い。もう一つは、「目の前に美味しそうな食べ物がある」という思いです。
人間は誘惑に弱い生き物ですから、今の自分をなるべく正当化して決着させようとします。 すると「明日からダイエットしよう」というところに決着します。
つまり「今の自分が食べたとしても、ダイエットしたいという気持ちはゆらいでいない」と自分を納得させていく生き物であるという事象が、認知的不協和です。
自分を正当化するというのはお客様の側も同じ話です。ここで、営業を受けるお客様の視点から、認知的不協和がどう起こるのか考えてみましょう。
営業におけるお客様の認知的不協和とは
営業から「この製品いいですよ、こんなすごい機能がありますよ、便利ですよ、役に立ちますよ」と言われた時、お客様は「買っても使いこなせるかどうか不安だな」と頭をよぎりますし、時にはそう口に出します。
すると営業の方が「いや大丈夫ですよ、他社さんではしっかり使いこなしていただいてますよ」というふうに、お客様の意見と営業の意見とが衝突するとします。 この時、お客様の心の中で葛藤が生じます。
ダイエットの例からわかるように、人間の心の動きは自分を正当化する方向に向かいやすい傾向にあります。
自分と違うことを言う営業の言葉に対し、「間違ってるんだろうな」「他の事例では大丈夫だって言ってるけどうちの会社はちょっと特殊なんだよな」と考えている可能性があります。
人間の心理として、「自分を納得させるときに理由が欲しい」のです。
例えば、「説得されて買った」というお客様の心理がある上、買った後にあまり思わしくないことが起こったとします。 その時にお客様の心の中には「これ自分が進んで買いたいって言ったわけじゃないのに」「自分はその営業に無理やり買わされたんだ」といったように、自分を正当化する方向に向かいやすくなります。
そうすると、後で気になったことがある時や、不満の種みたいなものがある時に、原則的にお客様が自分を正当化することで、営業やそのサービス自体を悪者にしてしまう傾向にあります。そうなると、本来発生しなくてもよかったはずのフォローやメンテナンスのコストが上がりますし、リピートやクロスセル、アップセルの提案をするときにやりづらくなります。
そのため、無理やり説得して買ってもらうというアプローチをとることにより、既存やリピートの売り上げに影響が出てくる恐れがあります。
将来的な成長の観点から考える
もう一つの観点は、営業としての成長です。
トップセールスの方はだいたいどの業界でも等しくお客様を無理に説得することなく喜んで買っていただいています。
そこに至るまでのプロセスを考えると、営業から説得してする以外にクロージングの手段を持っていないと、お客様がどういう心理で、どういう心の変化によって買うという行為に至るのかに対する感度が落ちてしまいます。
将来的な成長として、トップセールスが上がっていくときにお客様を説得して説き伏せて買ってもらっていては、成長の限界がまもなく来てしまうでしょう。
ではなぜ世の中において説得型の提案をされる方がいるかというと、世の中には説得されるのに弱いお客様も存在するからです。
「お客様を説得してしまうと受注率が落ちる」ことをより正確に言うと、お客様を説得することによって買ってくださるお客様もいる。ただし押しに弱いタイプのお客様に対してはそれで売れるけれども、それ以外のアプローチがだんだんできなくなってくるということです。
また、その後のリピートやクロセル、アップセルが厳しくなります。 結果として良いお客様に遭遇する確率が低くなりますし、その後何かのボトルネックになってきます。
「説得する」以外の手段
良いお客様と出会うためには、お客様自身が今商談に時間を使っている理由をしっかり拾い上げることが大切です。
例えば、今が商談が成功する確率がまだフィフティフィフティの段階でお客様にご理解いただかなくではいけないとします。
それでも検討のテーブルに残っているということは、お客様側でも今ここ(商談)に時間を使う理由が何かしらあるはずです。
そのときに何がネックになっているのかを聞いて説き伏せるよりも、そもそもなぜ今、検討の段階に乗せていただいているのか、なぜお忙しい中でこの場に時間を使ってくださっているのか掘り下げることで、自分が強く説得しなくてもお客様の方から買ってくださる流れができやすくなります。
お客様を説得するのではなく、お客様が今ここに時間を使っている理由を丁寧に掘り下げることが重要です。