今回のテーマは「コンペの終盤で勝敗に影響する注意点」です。
コンペの終盤ということは、自社も候補に残っていて、可能性がある位置にはいるけれども単独1位ではないという状態です。 そのときによく起きる失敗を、この図の左側に書いています。
失敗1「気になる点はありますか」
「提案について気になる点はありますか」というのは本当によく出てくる発言です。 ロールプレイなどをやると多くの方がおっしゃるのですが、これは少し気をつけなくてはいけません。
お客様からすると、他社と競っている状況なので気になる点はもちろん出てきます。 そこからずっと説得モードが続いてしまうのが危険なのです。
営業側が一生懸命「これでどうですか?」「では、これではどうですか?」と何か材料を出してプッシュをし、お客様が決めきれないとまた材料を出し……というのが続くと、だんだんきりがなくなってくるので、最後は「価格を頑張る」以外の選択肢がなくなってしまうことがあります。
つまり「気になる点はありますか」から入ると、苦しい戦いになりやすいということです。
失敗2「よく○○と言われるのですが」の予防線
よくある失敗の2つめに、相手の感触がまだ確認できてない状態で「よく○○と言われるのですが……」と予防線を張ることがあります。 こちらも多いケースです。
商談をしていると、お客様に指摘されそうな部分がある程度、想像がつくと思います。
いくつか例を挙げてみましょう。
SaaSを運営する会社の場合
特にスタートアップのベンチャーなどは、すでに比較サイトのようなものがあって、お客様がそれを比べて資料をダウンロードしていることもあります。 そうすると、営業の方はお客様に「ちょっと違いがよくわからない」と言われるわけです。
これもロールプレイでよく出てくるセリフなのですが、「よく他社との違いが何なのって言われるんですけど、正直、そこまで違いはありません」というようなことを営業側から言ってしまうケースがあります。
サービスを使いこなすのが難しい場合
すごく便利な機能だけれども使いこなすのが難しいサービスの商談で、営業の方から「よく使いこなすのが難しいと言われるのですが」と先に言ってしまうことがあります。
価格帯が高いサービスの場合
価格帯が高く品質の良さが売りというサービスの場合、「よく弊社は高いと言われるんですが」と営業側から言ってしまう例です。
お客様の指摘に対応するトークを用意してあるからこそ、営業の方は予防線としてこれらの発言をするのだと思います。
しかし気をつけなくてはいけないのが、相手の感触がまだわからない状態で予防線を張ると、場合によっては、それが後にお客様の断りやすさにも繋がってしまうということです。
「比べてみたらやっぱり違いがわからなかったんです」「やっぱりちょっと使いこなせるかどうか、会社の中で懸念が払拭しきれませんでした」「私はいいと思ったんですけど、社内から価格が高いと言われまして」などと、断られる材料にもなってしまいます。
したがって、相手の感触がまだ確認できていない状態の予防線は、やってしまいがちではありますが、注意が必要ではないかと思います。
反論対策へ移る前に確認しておきたい3項目
ではどうしたらいいのかということで、図の右側に「反論対策へ移る前に確認しておきたい3項目」を挙げました。
反論対策というのは、いわゆる「オブジェクトハンドリング」とか、古くは「応酬話法」など言われていた、お客様がネックとして感じていらっしゃることに対してどう切り返すかというものです。
その反論対策に移る前に、この3つを欠かさず聞いておきたいという項目を挙げていきます。
項目1:当社を有力候補として残している理由
1つ目は「当社を有力候補として残している理由」です。
『無敗営業』でさまざまなアンケートを載せていますが、本には載せていないグラフで「情報収集の段階で何社から情報をとりますか」というのと「提案の見積もりは何社からもらいますか」という質問を両方聞いたアンケートがあります。
前者の問いはだいたい3~10社、後者は3社くらいという回答が多かったのですが、コンペ終盤に残ってるという時点で、何かしら選んでる理由に値するものがあるはずなんですね。
なぜ切らずに残しておいたのか、なぜ他の会社を落として当社を残しているのか。 その理由を深く聞くというのがすごく大事なのですが、これをあっさり聞いている方がとても多いのです。
これは、私がロールプレイを直接やっている分だけでももう何百回と見てきたことなのですが、自社を有力候補として残している理由について聞いた後、すぐにネガティブな方に話題を移される方がほとんどなのです。 95%以上と言っても過言ではありません。
とにかく、候補として残している理由をお客様の言葉で語っていただくべきです。 これはどれだけ丁寧に聞いても聞きすぎることはありません。 後の方でしっかりとフックにかかってきます。 ポジティブな理由はじっくり聞いておきましょう。
項目2:価格以外の暫定順位
2つ目が「価格以外の暫定順位」です。
だいたいのお客様は「費用対効果」や「トータル判断」ということをおっしゃるのですが、そこを一度仕切って「一旦価格は置いておいて、価格以外でもし順位をつけるとしたらどうですか?」ということを聞いておきましょう。
特に高品質高価格帯で勝負する商材の営業の方は、これを絶対に聞いておいてください。 ここを聞かずに「いいけど高いんだよね」と言われたまま、価格がネックになった状態で進んでいる場合が結構多いのです。
私が前にやっていた会社は、人事の方がお客様でした。 大企業の人事だとほぼ必ずコンペをする世界でしたので、営業メンバー全員に対して、価格以外の暫定順位を聞く練習をやっていました。
「価格以外の順位を必ず聞いてくる」と決めるだけで、勝率が上がるか下がるかで言うと、絶対に上がります。
項目3:個人的な感触
そして3つ目が「個人的な感触」です。
1つ目と2つ目の質問をすると、当社に対するポジティブなコメントがそれなりに出てくるはずです。 そうしたら、目の前の方に対して「個人的な感触としてはどうですか?」と聞いてみてほしいのです。
そして、もしそのお客様が味方になってくれそうな気配があるならば、必ず丁寧に深掘りしておきましょう。
というのも、例えばその組織相手のコンペで「私はいいと思うけれども他の方が……」となったときに、他の方の説得に移るのはタイミングが早すぎる場合があります。
まず目の前の方をしっかり味方にしておかないと、情報が得られなかったり、粘るための時間を確保できなかったりすることがありますので、目の前の個人を味方につけるのはとても重要な項目です。
以上の3項目を確認してからオブジェクトハンドリングに移るべきなのですが、その3つを軽くスキップしていきなり反論対策に移ってしまう方が実は多いため、まずはこの点を解説しました。
先にポジティブな情報を聞く
いわゆる「反論対策」をしていったときに、お客様の気になる点やネックに対してしっかりと切り返すというのは、中級以上の営業の方々が着実にやられていることだと思います。
ここで私がお伝えしたい注意点は、お客様のポジティブな意見や感触がまだ言葉になって出てきていない段階で、先に懸念点から聞くと、そのネックに対する説得モードになりやすいということです。 気になる点を聞くのはいけないことではなく、順序の問題ですね。
気になる点を払拭していくのは有効ですが、ポジティブな材料を丁寧に拾わないままに単純なネック返しや反論対策をしてしまうと、気づけば「ああ言えばこう言う」の応酬になってしまうなど、説得とプッシュの元になりやすいのです。
先に「当社をなぜここまで残していただいているのでしょうか?」や「価格以外で感じていただいている順位はいかがでしょうか?」、「個人的には導入したいと思われていますか?」などの切り口で、前向きな言葉をいただいておくといいですよ。