「値引きでクロージング」は麻薬のようなもので、一度頼ってしまうとなかなか抜けられません。
とは言え、「価格がネックで…」というお客様へのクロージング法について、値引き以外の方法を知らない営業が多いのではないでしょうか。
ここで鍵になるのは
●認知的不協和の理解
●枕詞の活用
●決定場面を問う質問
●値引きルールの設定
の4つです。
認知的不協和の理解
『無敗営業』読者の方にはおなじみの「認知的不協和理論」です。
購買判断に迷うお客様はモヤモヤっとし、何らかの「落とし所(不協和の解消)」を求めます。
当然、営業としては、”当社を選ばない”という落とし所には持っていかれたくないので、悪い結論を避けるため、何らかの情報を追加しようという心理が働きます。
「この提案いいかも」と思いながらも「でもこの場で決めるのは不安」でモヤモヤしたお客様は、とりあえずの落とし所として「もう少し考えよう(保留)」という結論を選びやすいものです。
そこで営業はそれを避けるために、「今回は特別に安くしますよ」という情報を追加して結論を変えようとします。
即ち、「値引きによるクロージング」です。
「価格」でクロージングしてしまうと、営業の中で「結局お客様は価格で決める」という思い込みが強化されます。
そしてそれ以降、お客様が迷ったら値引きで決めに行く、という手段以外とれなくなっていきます。
「価格が原因で購買したお客様は、価格が原因で(他社に)流れていく」と言われますが、本当に怖いのはそれではありません。
「値引きによるクロージング」が生み出すものは、「値引き以外ではクロージングできない営業」であり、これが一番のリスクです。
将来、その営業担当が上司になると、ゆるゆるの値引き稟議が増殖し、それはいつしか文化になります。
この点から見ても、「値引き以外で戦える引き出しをいかに増やしていくか」は超重要なのです。
枕詞の活用
すぐできることは枕詞の活用です。
お客様「価格がちょっと気になりますね」
営業「なるほど…ちなみに、価格という要素を仮にいったん置いておくとして、それ以外についてはいかがですか?」
これもせずに、すぐ値引きを提示する営業は多いです。
(事前に上司の値引き決裁をもらった上で商談に臨んでいるため)
決定場面を問う質問
長期的には「接戦の決定場面を確認」し続けることが重要です。
値引き案件の受注でも、実は値引き提示前にお客様が「発注しよう」と心の中で決めていたケースは少なくありません。
その場合「そんなに値引かなくても買っていただけた」わけなので、「では、いったいどの瞬間で決まっていたのか?」をきちんと確かめます。
ここまで書くと「じゃあ、値引きを1回もするなということなのか?」と言われそうですが、商材特性やお客様の懐事情によって、やむを得ない値引きというのは存在します。
値引きルールの設定
ここが重要なポイントですが、私が言いたいのは
●値引きをする
●値引きを「決め手」としてクロージングする
は違うということです。
「実質的に当社へ発注は決まっているのだけど、稟議を通す上で、どうしても予算上難しい」ということはあります。
これはやむを得ない値引きが起こりうるケースです。
一方、避けなくてはいけないのは「当社に発注してくれるか見えない段階で、値引きすることを(営業側として)決めてしまうこと」です。
上司の値引き承認フローに、
●当社への発注が決まった上で、どうしてもやむを得ない値引きなのか(お客様の社内事情)
●仮にコンペの場合、価格を除いた判断基準で当社は圧勝しているのか(価格を除いても同率1位なら基本的に承認しない)
の確認が入っていないと、安易な値引きを誘発してしまいます。
要するに、「値引きが悪」というより、「値引きを決め手にしたクロージングが横行することが、個人や組織の営業力を弱らせる」ということです。
いったん「値引きを決め手にしたクロージング」の方に行ってしまうと、後戻りはなかなか難しいです。
営業は「価格が原因で売れない」という”現場の声”をあげてきます。