営業マネジャーから「部下に商談でしゃべりすぎる癖があって、いくら言っても治らないのですが…」といった相談を受けることがあります。
このような時、あるべき論やダメ出しの指導では、癖や行動は変わりません。
行動を変える気づきを生むには「比較対照」が重要です。
「同じ状況の時、AさんはこうするがBさんはこうする」の公式
どうすればいいかの正論(例:商談ではお客様の話す割合を増やせ)は、みな、頭では理解しています。
ですが、わかっていてもそれに反する癖を持っている場合は、何らかのバイアスや思い込みが存在しています。
例えば、「自分が話さずに”間”ができるとマイナス印象を抱かれる」と思い込んでいる場合などです。
この状態では、アドバイスが効果的に作用しません。
以前、営業研修を行ったとき、参加者に「うまくできている商談の動画」を1パターンだけ見せたことがありましたが、その反応は薄いものでした。
その場で感想を話していただくと、「まぁこんなもんだよね」「自分もこういうのを意識している」という声が多くあがりました。
理想の商談動画だけ見ても、「自分はできている」と感じる人がほとんどなのです。
また別の研修では、参加者に「うまくできている商談動画(Aパターン)」と「うまくできていない商談動画(Bパターン)」2つを見せました。
すると「うわぁ〜、自分、Bの方をやっているなぁ」という声が多くあがりました。
人は、理想の状態は何となく頭に描いているが、比較対照の例を見ることで認識がリアルになります。
同じ場面でも、AさんはこうするがBさんはこうする。
この比較対照を持ち込むことで、重要な気づきを促すことができるのです。
対照比較によって「変化した自分」を実感
メンバーが商談でつい一方的に話しすぎてしまうなら、比較対照として、マネジャーが手本を見せるのが効果的です。
別の商談でちょうど同じ場面に差し掛かったところで、一方的に話さず傾聴して商談をうまく進める様子を見せます。
そして上司の手本を見せた後、さらに次の商談では、同じような場面でメンバーに「一方的に話さず傾聴して商談を進める」ことへのチャレンジを促します。
対照的な例を見た後は、ポイントの解像度が上がっているため、メンバーの行動が少し変わります。
そこで、すかさず商談後にBefore→Afterをフィードバックします。
「同じ場面で、1週間前の君は一方的に喋りすぎていたが、今日の君は傾聴の割合が増えて、お客様の熱量も上がっていた」
このように、対照比較によってメンバーは「変化した自分」を実感します。
これら一連のプロセスを飛ばして、あるべき論を延々と伝えたり、繰り返し駄目出ししても、部下の行動は決して変わらないのです。