営業の方から「自社の商品に、正直、自信が持てません。どういう心持ちで営業をするべきでしょうか?」という相談をいただくことがあります。
「商品の魅力を信じるのが営業」あるいは「自分を商品として訴求せよ」と片付けてしまうのは簡単ですが、私は別の切り口から、「お客様の心理を学ぶ絶好の機会」だと考えています。
「商品力」や「値段」ではない「勝ちパターン」
以前、塗料メーカーの営業の方が「他社取引のお客様に、切り替えを狙って営業しても、”少しでも色が変わるのは嫌だ”と言われるんです。色の番号が同じでも、メーカーが違えば色の差が出ます。我々は、他社から切り替えてもらうために、値下げするしかないんです。商品で勝負できないので」とおっしゃっていました。
私は「値段でしか勝負できない」と言ったその営業の方に、「他社より安くしなくても取引してくれたお客様はいないんですか?」と聞いてみました。
すると「ゼロではないです。むしろ初取引なのに、他社より高くても買ってくれたお客様もいらっしゃいます」とおっしゃいました。
ここに、大きなヒントがあったのです。
「商品で勝負するのが難しく、信頼関係ができていないのに、塗料を高い価格で買ってくれたお客様」とは?
該当案件をリストアップしてみると、共通点がありました。
それは「タイミング」。
たまたま新製品が出るので塗料を探していた、たまたま異動したばかりで他社を知らなかった…などなどです。
ここで「たまたま」で片付けず、どうしたらそのタイミングを捉えられるのか?を、その方と一緒に考えてみました。
●塗料メーカーは競合が少なくのんびりしている
●他社の営業も創意工夫せず値引きで勝負
このような業界の特徴があり、「お客様が必要なときに営業がいない」ことへの不満が大きいことがわかりました。
さらに作戦会議です。
お客様の購買行動について、「そもそも、どういうタイミングで塗料メーカーが必要になるのか?」を徹底研究しました。
そして、訪問や電話の度に「タイミング」に関するヒントを多く集め、他メーカーが「値引きで勝負」をする傍ら、タイミングをキャッチし、「いてほしいときにいてくれる」存在になっていったのです。
「商品で勝負できない」ことに悩んでいたAさんは、タイミングを掴むのが上手くなり、顧客に必要とされ、値引きに頼らない勝ちパターンを作りました。
このAさんが培ったスキルは、もちろん他の業界でも活かすことができます。
新規開拓営業の世界であれば、どんな商品だろうと、応用が効かせることができるのです。
安売りでなく、お客様の心理を知る
私自身、25歳で初めて起業した時、実績無し・人脈無しで、未経験の世界に飛び込みました。
商品もゼロから手作り。
1日に100件コールして1件アポ獲得、ようやく会えても提案機会までなかなかいけず…。
そのような中、やっと得られた提案チャンスに、全身全霊で提案を作りました。
しかし、商品で勝負できる自信なんてありませんでした。
やっとの思いで、金額は大きくないですが、創ったばかりの会社にお客様が発注をくださいました。
「嬉しい!!最高だ!!」 私は、心血を注いで提案書を作ったかいがあったと思いました。
納品後、懇親会の席で私はドキドキしながら「ちなみに、実績もない当社を選んで頂いたのはなぜですか?」と聞いてみました。
その時、返ってきたのは予想外の答えでした。
「いや〜実はね、昨年まで違う会社に頼んでたんだけど、営業担当が代わってから品質が落ちてね。全然こっちの言うことも伝わらなくて…」
私は、見たこともない他社への不満を延々と聞かされることになりました。
「全身全霊で提案を作ったのに、結局、消去法だったのか…」
私は最初ショックを受けましたが、帰宅して冷静に考えました。
大企業の人事担当はかなり発注慣れしている。
だから、「過去に満足しなかった会社への不満」が相当なレベルで溜まっているし、きちんと言語化されている。
だったら、そこを突けばいい。
それ以来、私は提案をする前に「必ず」過去の発注におけるマイナス体験はなかったか、それはどんなものだったのかを詳しく聞くようになりました。
発注側の心理としては、「変な会社に発注するのは避けたい」と強く思っています。
そのため、過去の不満を丁寧にヒアリングする所作があるだけで、信頼度が上がります。
商品に自信がない時こそ、お客様の心理を深く知る絶好のチャンスです。
たとえ1件でも、発注をくれたお客様の声に、一生モノの学びがあります。
もし仮に、商品力が強すぎたら、営業が下手を打っても売れてしまいます。
それでは、「お客様がなぜ買うのか」に対する洞察は得られませんし、考えもしないでしょう。
「商品に自信がない」からといって、絶対に「安売りでクロージング」をしないことです。
価格を理由に注文をいただいていたら、「お客様がなぜ買うのか」の心理がわからず「安くすれば買ってくれる」で終わってしまいます。商品に自信がない時こそ、歯を食いしばってでも価格以外で勝負することを考えてみましょう。