選択肢が人生の価値を広げる
私が「人生の選択肢を増やす」事業をやりたいと思ったそもそもの原点。 それは、今から20年以上前にさかのぼります。
常軌を逸したスパルタ先生
私は中学生の頃、学習塾に通うようになりました。とは言え自分から積極的に塾へ行こうと思ったわけではなく、友達の家でファミコンをやっていたら、たまたまそういう展開になったのです。当時、ドラゴンクエストでクリアできないダンジョンがあり、友達の家で教えてもらっているうちに、おやつを持ってきてくれた友達のお母さんが 「浩一君もうちの子と一緒に塾へ行ったら?」 と言ってくれました。
そこで、はじめて「学習塾」なるものに行ってみたのですが、その塾ですごい先生に出会ってしまいました。中学2年のときの数学の先生です。 いわゆるスパルタです。今のご時世であれば新聞に載ってしまうような、常軌を逸したスパルタでした。 「自分の全人生を掛けてお前を育てる。求めるものはすごい厳しい。でもついてこい。絶対に合格させるから。」 そんな人でした。
私はそこで「大の大人による本気のビンタ」というものを何度も体験しました。 難しい問題ができなくても怒られません。 でも、「これは覚えておけ」と言われたことを覚えていない、もしくは、確認すれば済むことをやっていないと、ビンタが飛んでくるのです。
一回一発、男女平等。
大人が本気でビンタしますから、最初はみんな泣いていました。メガネをかけている子は、「メガネ取れや〜!」の声とともに、ビンタを食らってメガネが空中を飛んでいました。まるで漫画みたいな光景です。
当時、同じクラスにはメガネをかけている子が多かったのですが、そのうち、先生に指名されて答えられないと、もうその時点でメガネを自分から外してしまうようになりました。答えると同時にメガネを取るぐらいになると、もはやそれは条件反射です。
・・・と思ったら、「正解やないか!」ということもあったりしましたが。
人生には2つの分かれ道がある。やるのか、やらんのか。
さて、その塾では月に1回、月例テストがありました。全国すべてのクラスで行なうもので、レベル自体は簡単なテストです。 そしてテストの返却時。間違えた数に応じて一発ビンタが飛んできます。また、このタイミングで席替えが行われます。点数の悪い順番に教室の前から座る仕組みになっていたのです。
成績が悪い人が最前列で、通称、「ポールポジション」。私は一度このポールポジションに座ったことがあります。 コンマ1秒ですぐにビンタが飛んでくる特等席です。相撲でいうと砂かぶりですね。 アダ名をつけるのが大好きな先生は、私の下の名前をもじって、「お前は浩一やなくてイマイチや!日光の手前で停まってしまうじゃないか!」と言っていました。 (※栃木県の日光駅の手前には、今市駅があります)
当時の私は、部活で忙しくて勉強どころではなく、毎日大量の宿題が出てくるこのペースについていくのはエラく大変だと思いました。 ちょうど軟式テニスを中学で始めて、わりと面白くなってきたところでもあります。
部活は楽しい。塾はつらい。
つらくなって逃げたくなって、先生に、「いったん塾をやめて部活に専念したい」と、裏側で何回も直訴しました。 塾にわざわざ電話をかけて、「やめたいんですけど・・・」と相談したこともありました。
あるとき、ふだんは厳しい先生が、私の愚痴や不満を2時間くらいじっくり聞いてくれた後、こんな話をしてくれました。
「今のお前に言ってもわからないかもしらんが、この受験勉強で仮にうまくいかなくても、人生はなんとかなるだろう。逆に、うまくいったらそれはすごくハッピーなことだが、それで人生がうまくいくわけでもない。人生は受験が全てじゃない。
問題はそういうことじゃないんじゃ。
お前がここで踏ん張らずに不合格になってもそのまま人生なんとかなったら、”人生、がんばらなくてもなんとかなるんだ”ということをお前は覚える。ここで踏ん張らないとだめだ、というシーンは人生にこれから何度でもくる。今逃げたら何度でも逃げる癖がついてしまうぞ。
でも、想像してみい。お前がここで踏ん張って一発逆転、合格したらどうなるか。 お前は、”人生、がんばったらなんとかなるんだ”ということを覚えるだろう。
人生には2つの分かれ道がある。やるのか、やらんのか。やってもやらなくてもなんとかなるのはどっちもそうだが、その先の人生はまったく変わってくるってことじゃ」
今から思い返すと、涙が出てくるほど立派な話をされているわけですが、当時の私にはまったく響かず、「先生、それでも、私には無理です」と訴えました。
先生は「ここが人生の分岐点になるから、歯を食いしばってがんばれ!」と言うわけですが、何しろ、14歳の少年には将来像の話よりも、 「とにかく目の前の睡眠時間がほしい」 「つらい勉強から逃げたい」 という方が勝ってしまいます。しかし、そんなことは、当然ながら目の前の先生には言えません。
「お前は、能力がないのかやる気がないのか、どっちじゃ?」と聞くので、私は「やる気はあるつもりなんですが、私は先生にイマイチと呼ばれているように、数学に苦手意識があって自信がないんです」と答えました。
先生は少し考えた後、「じゃあ、問題集を1冊やる。お前が解くべき問題には印をつけといてやるから、それだけやってこい。空いている時間に見てやる」と言いました。 後からわかったことですが、当時、成績が伸びずに悩んでいる人たちは、みんな同じように個別にフォローをされていたようです。
その塾の授業時間は時間割上は19時から21時までだったのですが、その先生の授業はいつも19時から23時45分まででした(それが終電に間に合うギリギリの時間だったので)。しかも、先生は全てのクラスをそんなスケジュールで教えていました。さらにその合間で、伸びない生徒には個別指導をする。そんなスタイルで教えているわけですから、先生が家に帰れなくなることもよくあったようです。
私は先生の個別フォローのおかげで数学の成績が伸び始めました。しかし、それでもどうしても他の科目に比べたら苦手意識が強く、受験直前まで不安を抱えていました。
<後編へ続く>