「今ではない」はあてにならない
今回は「なぜお客様は『今じゃない』と言うのか」についてお伝えします。
営業パーソン
いつ頃にご連絡差し上げたらよろしいですか?
お客様
まだ検討できる状態ではないので、9月あたりにご連絡頂ければ…
こんなとき、9月にアプローチしてもうまく案件化しません。それは「当社がアプローチすべき時期」という形で聞いてしまっていることが原因です。
まず、購買時期でないのに営業からアプローチされて「今ではない」と答えているお客様の心理を考えましょう。
「今ではない」と答えているお客様の心理
- いま迫られても困る
- 課題やタスクが整理できていない
- 頭の中が整理されていない
- 落ち着いて考えたい
この状況でお客様から回答される「この時期に連絡してほしい」は信頼性に欠けます。
不確実な状況は変動する
「今じゃない」お客様にまず伝えるべきは、条件反射で拒絶されてしまわないように「今、無理に売り込むことはしません」ということです。ただし、ここで「では9月にまたご連絡しますね」と終わってはいけません。なぜかというと、お客様は目の前の課題やタスクが整理しきれておらず、不確実な状況はまた変動するからです。
このときお客様は、次のように考えています。
- まず、目の前の課題Aがある
- でも課題Bもある
- あれ、他にもありそう
- 整理しきれていない
- とりあえず、少し先で9月と言っておこう…
そして、結果として「9月にまたご連絡をお願いします」と言っています。本来、真っ先に行うべきは課題やタスクをお客様と速やかに整理することです。
お客様にとっては以下の状況が見えると、視界がスッキリします。
- 課題A←すぐやるべき
- 課題B←次にやるべき
- 課題C←ここが、営業の提案商材が解決できる課題
- 課題D←緊急度は低い
- 考えるべき課題は、他にない
しかし、このままでは「当社が提案したい課題C」の提案時期は後ろのままです。
課題の構造をみることで、ボトルネックを見定める
課題を並列的に考えると「A→B→C→Dの順に解決をしましょう」となりがちです。こんなときは、全体の構造が見えていないことが多いです。そこで、課題A〜Dの「構造」を見るようにしましょう。それらの課題がどのように絡み合っていて、どこがボトルネックなのかを見定めるようにします。AとBとCとDの因果関係や構図を明らかにしましょう。
課題を整理し、「実は課題Cへ最初に着手すると、AとBとDもうまく解決できるのです(着手の順序を入れ替えることの提案)」と言えると、Cの優先順位が上がります。最低でもA〜Dまで洗い出し、課題Aや課題Bに対して労務提供や情報提供でお役に立つ道を作っておきましょう。
課題Aや課題Bに対して、労務提供や情報提供ができるポイントを明確にしたら、当社の取るアクションは「9月に課題Cのためにアプローチする」ではなく、「課題Aや課題Bのために、直近できることで貢献する」になります。この時点で価値を提供することができれば、後々課題Cについても案件化しやすくなります。
お客様の重要課題を理解する
「今じゃない」と回答したお客様に、インサイドセールスが「当社のサービスに関係ないところでは、お客様にどんな重要課題があるのか」を質問するようにしましょう。それをSFA(営業支援システム)の記録に残し、かつ、直近にできる情報提供の材料を探ります。こうして「来たるべき時期」の前に価値の提供を積み重ねておくことで、案件化率が上がります。
お客様が「今じゃない」という時には2つの文脈があります。1つは提案の機会をいただく前の段階です。例えば、営業がアポイントをとろうとする場面で「今はそのサービスは必要ありません」と断られてしまうことがあります。
もう1つの文脈は、商談の場面で発注するかどうかを検討する段階です。いずれの場面においても、営業がお客様の最適な時期を捉える必要があります。
お客様にとって、「どうしても今が買うべき時なんだ」と言い切れる時期を見極めるのは困難です。「半年後でもなく、半年前でもなく、今なんだ」ということを決めるのは難しい、ということです。
お客様の「余裕」を作るために、何がサポートできるか
ここで重要なのは、「お客様の準備が整っているかどうか」です。
お客様は常に忙しいので、「準備が整っている」という状態はほとんどありません。お客様は常にやるべき仕事を抱えているからです。
お客様が「今じゃない」という時、それは「今は余裕がない」ということを意味しています。それを考える心の余裕がない、あるいはそれに取り組むだけのお金や時間や人手といったリソースの余裕がない、ということです。
お客様の「今じゃない」という発言を「余裕がない」というふうに読み変えてみましょう。そうすると営業としてやるべきことは「お客様の余裕をどう作り出すか」「お客様に余裕がない中でも仕事を任せられる存在であることをどう示すか」になります。
本当に大事なことは時期ではなく、そのお客様が営業に任せてくださるかどうかです。その時に「余裕がない状態から余裕のある状態を作り出しますよ」と言うためには実績やノウハウが溜まっている必要があります。
多くの営業は「自社の製品を使ってくれたらうまくいきますよ」ということは語れますが、仮に「自社の製品を使わずに、お客様が成功するために必要なアクションを書き出してください」と言われたら書けないことが多いです。
営業が押さえておくべき2つの要素
そこで、営業が押さえるべき要素が2つあります。
それは「絞り込み」と「順序」です。
絞り込みというのは、例えばお客様がデジタル化に取り組む際、やるべきことが100個あるとします。その際に「100個全てをやる必要はありません。御社にとって必要なのは100個のうち10個です」と言えるかどうか、ということです。
お客様側からすると、課題解決をしようと思って課題を整理する過程ではこの優先順位付けが非常に重要なポイントとなります。営業としては課題の絞り込みについて的確なアドバイスができる必要があります。
順序というのは「絞り込まれた課題をどのような順番で取り組むのか」ということです。営業としては、お客様に「それらの課題をどのような順番で取り組んだらいいのですか?」と聞かれた時に、取り組むべき課題の順序について語れる必要があります。
「優先順位の絞り込みができるだけの力を持ってるか」「正しい順序をお客様に提示することができるか」。この2点をクリアしてさえいれば、お客様が多少他のことで忙しかったとしても「どのように進めればいいか」ということについて考えやすくなります。