重要なのは「お客様の心が動いた場面」
「価格が高い」と断られることに悩む営業組織は力の入れどころがずれてしまっているケースが多いです。高い価格に見合った付加価値を訴える営業トークの練習をするのであれば、その前に「決定画面を問う質問」をすることをおすすめします。
「高いと感じるんだけど、どうしようかな」と感じているお客様を一生懸命に説得しても、結局は「価格が安い他社のサービスにします」「高いのでもう少し考えます」という答えに行きがちです。
その前に「お客様の心が動いた場面」をつかんで、クロージングの算段を立てることが必要です。そこで、「決定場面を問う質問」をチームで行う手順を解説します。
まず、「最近の受注案件リスト」を作って並べてみてください。
その中で「他社より価格が高いのに受注できた案件」「値引きせずに受注できた案件」を選びます。
そして、お客様へ次のようにヒアリングします。できれば、チームで営業力が最も高い人がすることを推奨します。
営業パーソン
今回、●●(自社の提案)をご導入頂いたと思うのですが、おそらく、××(他社の提案)のような選択肢とも、比較検討の上で悩まれたのではないでしょうか?悩まれた際に、何が最後の決め手になったのでしょうか?御社のご期待にきちんと添ったサービス提供をしていくために、そのポイントを参考までに教えて頂けませんか?たとえば、上層部に対してどんな説明の仕方をされたかなどを教えていただけますでしょうか?
営業パーソン
・・・なるほど、ありがとうございます。これは考えすぎかもしれませんが、もしかしたら、価格について懸念される声もあったのではありませんか?それはどのように社内を説得されたのでしょうか?
営業パーソン
・・・そうなんですね。他にも、●●(自社にとってネガティブな内容or競合の優位性)のようなツッコミはあったのでしょうか?それにはどう説明されたのですか?
このように、「自社の提案に対してビハインドとなりそうな要因」を対立候補に挙げてヒアリングを重ねていきます。
仮に「あまり悩まず、あっさり決まりました」との回答があった場合は、次のように聞きましょう。
営業パーソン
それは弊社としては嬉しいご回答なのですが、参考までに、それほど弊社をご評価いただけた要因はどのあたりにあったのですか?
そしてその後、先ほどと同様に次のように質問すればよいでしょう。
営業パーソン
もしかしたら、●●のようなご意見もあったのではありませんか?
「決め手になった場面」を聞こう
このようにして聞いていくと、「お客様の心が動いた場面」についての解像度がものすごく上がります。価格が高くても買ってもらえた理由はなんなのか、社内から懸念される費用対効果への疑問はどのようにして解消されたのかを聞くのです。
事実を押さえた上で必ず「決め手となった場面」を特定していきます。これは「理由(主観的な意見)」で終わらせず「場面(客観的な事実)」を確認することが重要です。
例えば、「XXXという点は、他社さんだと実現できないと思ったので・・・」という「理由」は、お客様の主観的な意見です。この情報だけでは対策のアクションに落とし込めません。
「いただいた提案書の、このページを使って経営陣に納得してもらったんです」といったような「場面」の情報を確認できれば「そのページを説明したとき」のように、具体的なアクションにつながるヒントが得られます。
そのような情報は「お客様と商談するときにはこのページの説明の仕方が鍵になる」といったように具体的な行動に結びつきます。
ここまで情報を集めてから、チームで「価格に見合った価値をどう伝えるか」を議論することがおすすめです。
このように、「接戦の決定場面を確認する」ことが勝ちパターンを作る鍵になります。

「揺るがぬ事実」が組織運営の土台となる
弊社はよく経営者やマネジャー、リーダーの方から営業についての相談を受けますが、最終的に「何を頼りにすればよいのか」という問題に行き着くことが多いです。
戦略や方針、施策を考える際に「これが本当に正しいのか?」と疑問に思うことはよくあります。その際、「何を根拠に判断すればよいのか?」という問題に直面するのです。もちろん、世の中には多くのアイディアや手法があるので実際に様々な戦略や方針、施策を試すことは大切ですが、時間や資源には限りがあります。では、「これでいける」という確信を持つためには何が必要なのでしょうか。
それは、「揺るがぬ事実」です。
この「揺るがぬ事実」というのは、お客様が実際に購入を決める瞬間のことです。お金を支払うというのは大きな決断で、そこには必ず心を動かされた何かがあるはずです。そのポイントを押さえられれば、営業でもマーケティングでも大きなミスを避けることができます。
その事実を調べるのに必要なのが「決定場面を問う質問」です。「決定場面を問う質問」を会社全体に浸透させるのです。
この話をすると多くの経営者は「よし、やってみよう」と意気込むのですが、実際には「決定場面を問う質問」を会社全体に浸透させたとしても上手くいかないケースも少なくありません。
その典型的な失敗パターンの1つが「情報が蓄積されていない」ということです。受注や失注が決まった後、その案件がどのように決着したのかを振り返る際に情報がなければ分析ができません。多くの企業では失注の原因分析はしっかり行っているものの、受注の原因分析をしていないことがよくあります。これではなぜ成功したのかが分からず、成功を再現することができません。
成功の理由を分析しないまま失注原因の分析だけに注力していても、本質的な解決にはなりません。そのため、受注と失注の両方についてきちんと情報を記録し、分析することが重要です。
そして次に、情報をカテゴリに分けることがカギになります。受注と失注のそれぞれについて情報を「カテゴリ」と「詳細の記入欄」の2つに分けて記録します。それにより受注に関する「カテゴリ」と「詳細」、失注に関する「カテゴリ」と「詳細」という4つの情報を集めることになります。
ここでよく聞かれる質問として、「うちにはそのように情報を記録する文化や習慣がありません」というものがあります。ここでよく陥りがちな誤解は、「文化が必要だ」と考えることです。しかし、実際には文化は必要ではありません。単に「書いてください」と言い、その後きちんと書かれたかを確認すれば良いだけです。書かれていなければ再度「書いてください」と伝えるだけのことです。これは単純に「やるか、やらないか」の問題です。
こうしてデータが蓄積されていったら、次にそのデータを組織内で最も能力の高い人が1人でじっくりと分析します。ここでもう1つのつまずきやすいポイントは、いきなり全員でそのデータを見ようとすることです。これでは議論が拡散し、どのポイントに注目すべきかが不明瞭になり、仮説も立てづらくなります。まずは全体を見渡せる能力の高い人が1人でデータを眺め、仮説を立てる時間を持つことが重要です。
その仮説を基にして簡単なメモを作成し、そのメモを基に全員で議論をします。ここまで進めば、あとはチーム全体で話し合うことで何らかのアクションに繋げることが出来るはずです。
このプロセスを定期的に繰り返すことが重要です。毎月行うのも良いですし、忙しい場合は3ヶ月ごとでも良いでしょう。毎週行えばさらに効果的です。
具体的なアクションに結びつくカテゴリを作ろう
情報を入力する際に大切なのは経緯や場面についてどれだけ詳細に書けるかということと、カテゴリを正しく設定することの2点です。特に経営者やリーダー、マネジャーが「聞いてこい」と指示を出すだけでは効果が薄いです。まずは組織内で最も能力の高い人が直接お客様に質問することがおすすめです。
一番能力が高くて全体を見渡せる人が質問力を発揮してヒアリングをすれば有益な情報が得られます。有名な例として、オイシックス社の代表である高島宏平氏が直接お客様のお宅に伺い、話を聞いたという話があります。これこそまさにトップの人が直接ヒアリングをすることに価値があるということを示しています。こうして得られた情報から「なるほど、そういうことか」という洞察が得られます。
その後、その内容を動画やスクリプトにまとめて他のメンバーにも実践してもらうというステップに移ります。このステップを省いていきなり指示を出しても質の向上は期待できません。
また、カテゴリを作る際、カテゴリの作り方が非常に重要です。カテゴリが適切でないとどれだけ情報を集めてもあまり意味がありません。例えば「価格」や「スペック」といった大まかな項目を設定すると、情報を入力する際にそのカテゴリばかりが選ばれてしまいます。「価格が高くて負けました」という情報が積み重なれば、「価格を下げるか」という議論に発展してしまいますが、それが正しい解決策であるとは限りません。
そこで、カテゴリはその後のアクションに結びつくように設計する必要があります。例えば「このカテゴリに多くの情報が集まるなら、こういうアクションを取れば受注が増えるだろう」とか、「このカテゴリで失注が増えているなら、この対策を取れば失注を減らせるだろう」といった具合に具体的なアクションに結びつく形でカテゴリを作るのです。
これは一度で完成するものではなく、まずカテゴリを設定し、分類・集計をしながら少しずつ見直していくことでしっくりくるものを仕上げていきます。
弊社では多くのデータを記録しており、「何月何日の何時頃に、どんな要因でお客様の心が動いたか」という情報が分かっている案件が半分ほどあります。もちろん、すべての案件でそれが分かるのが理想ですが、半分あれば経営判断には十分で、それを基に「これをしよう」「あれを試そう」といったコミュニケーションがスムーズに出来るようになります。