「7つのステップ」で案件数を増やそう
社員数が30人から300人程の会社経営者から、「売上を上げるために案件数を増やしたい」というご相談をいただくことがあります。その際にお伝えしている「最初の3ヶ月で取り組むべき7つのステップ」をご紹介します。
①決着案件を振り返り、勝ちパターンを探る
まずは、受注に至った案件を振り返り、成功パターンを見つけることが大切です。案件数は多くなくて構いません。重要なのは、案件化から受注までの経緯と、受注に至った理由を文章化することです。特に、受注した理由について「決定要因」と「決定場面」を明確に分けることがポイントです。それを何件かやると、共通点が見えてきます。
また、失注案件についても分析し、なぜ負けたのかを「もしこうだったら」「もしこうしていれば」という観点で振り返り、真の敗因を特定します。その際、失注した案件の担当者が責められるようなことがないように注意しましょう。弊社では、振り返りは受注も失注もまとめて「ケーススタディ」と呼んでいます。なぜかというと、全てが貴重な学びになるからです。
②KPIとフェーズを定義する
単に「案件数を増やす」と言っても各メンバーの解釈は異なるため、具体的なKPIとフェーズを定義するようにしましょう。決着案件の分析結果を基に「理想の営業プロセス」を明確化し、そのプロセスをフェーズに落とし込みます。その上で、例えば「フェーズ03以上の案件をX件に増やす」といった具体的なKPIを設定することで、全員が同じ方向に進むことができます。
③行動の「量」を増やし始める
KPIが具体化できたら、まずは行動量を引き上げましょう。量が増えることによって質が上がります。具体的には、お客様へのメールや電話のアクションを増やしましょう。「忙しさ」がネックになって行動量が上がらないのは優先順位の問題です。そんなときは「皆で時間をブロックして一斉にやる」のがおすすめです。
④行動の「質」を上げ始める
行動の質を上げるには「カテゴリ」が必要です。KPIを定めた「案件化」のところに「案件化できた決め手」と「案件化できなかった理由」の両方を用意しましょう。それぞれ「選択肢」と「自由記入欄」を設けます。カテゴリの選択肢を決めるのは難しいので、「1週間後に修正します」といったようにチームに予めアナウンスをし、必要に応じて修正するようにしましょう。
そして、「案件化できた決め手」と「案件化できなかった理由」をカテゴリごとに集計し、時系列で見ます。その上で「理想の案件化パターン」を増やし、「取りこぼしによって案件化できなかったケース」を減らしていきましょう。決着案件の振り返りを予めしていると、示唆が出しやすいです。
⑤モニタリングの仕組みを整える
行動の「量」と「質」について、Good/Badの基準を作ると、メンバーが4パターンに分かれます。状況に合わせてマネジャーがフォローしましょう。
- A:行動の量も質も申し分ない
- B:行動の量は多いが質が低い
- C:行動の質は高いが量が少ない
- D:行動の量も質もおぼつかない
⑥側面支援のツールを拡充する
活動で行き詰まりやすいポイントに、組織としてのバックアップが不十分な場合があります。以下については各個人に任せるのではなく、多少のリソースをかけてでも組織ぐるみの施策にすることがおすすめです。
- お役立ち資料のストックを作る
- メールのひながたを増やす
- スクリプトや社内FAQを揃える
⑦「行動」の改善サイクルを回す
あとは、ひたすら行動の量と質を上げるPDCAサイクルを回していきましょう。マネジメント側で「こういう状況に陥ったメンバーには、こんなフォローをしたらうまくいく」という成功事例を作ります。そうすることで、徐々に同じ落とし穴にはまり続けることが減っていきます。ここまできたら、後は徹底的にやりきりましょう。
土台となるのは「事実」を分析すること
案件数を増やそうとする場合、様々な取り組みがあります。例えば、資金力のある会社であれば広告宣伝に投資をするとか、案件を増やすためにリードを提供したり、アポイントを取ってくれる外部の会社に依頼するという選択肢もあります。また、社内で案件数を増やしている人のやり方を他のメンバーが真似するというアプローチも考えられるでしょう。
しかし、そのような選択肢が沢山ある中で、「どれが正解なのか?」と悩むこともあります。もちろん、ビジネスにおいては「正解」が明確にあるわけではありません。それでも、選んだ選択肢に対してある程度の確信を持ちたいと思うのが自然です。
その「ある程度の確信」を得るために大事なのが「事実」です。事実とは実際に起こったこと、つまり現実にあったことです。現実に基づく「事実」が一番強い根拠になります。それが、社内ですでに成功している事例に注目し、それを掘り下げて分析することが有効な理由です。
だからこそ、ステップ1が「決着案件を振り返り、勝ちパターンを探る」となっています。自社の成功事例を分析することで、時間や資金を無駄に使ってしまうことを防げるからです。
決着案件を振り返る際、「それは具体的にどういうことなのか?」という問いを突き詰め、「事実」に関する詳細な理解を深めることが重要です。
弊社の場合、受注に至る過程を詳細にヒアリングし、それをSFA(営業支援システム)に記録しています。それにより、何月何日に決定したのかまで把握できる案件が数多くあります。お客様の心が動く瞬間を詳しく理解することで、その後の営業活動の手がかりを得ることができるのです。
「具体的なKPI」がメンバーの行動を明確にする
次のステップ2が「KPIとフェーズを定義する」です。数字を見る際にまず目標となるのは受注や売上の増加です。案件数が足りない場合は当然ながら案件数を増やしたいと思うものです。
しかし、KPIとして「案件数を増やす」ことを設定した場合、他の部分にしわ寄せがきます。案件数を増やすと、受注率は下がる傾向があります。なぜなら、「受注率」の分母が大きくなるからです。案件数に対する受注数が受注率ですから、案件数が増えれば受注率が下がるのは当然です。
ここで重要なのは、「正しいプロセスが描けているかどうか」です。KPIを設定する際には、各フェーズに対するメンバーの認識が明確であることが重要です。正確にプロセスが定義されているからこそ、その上に設定するKPIが意味を持ちます。
その際、量と質のどちらを先に改善するかを考える必要がありますが、最初に取り組みやすいのは量です。そのため、ステップ3が「行動の『量』を増やし始める」となっています。
まず勝ちパターンに関する根拠が明確になり(ステップ1)、次にしっかりとしたフェーズとプロセスが定義されており(ステップ2)、その上で量を増やす(ステップ3)ことで単なる場当たり的な努力ではなく、意図的な取り組みとなります。
その後にステップ4として「行動の『質』を上げ始める」ようにしましょう。量を増やす過程で質を上げるためのヒントが見つかるため、ステップ3で量、ステップ4で質を向上させていくのが適切です。
量と質の両方を向上させていくと、やがて「こうすればうまくいく」という組織の勝ちパターンが見えてきます。そこで、組織の規模に応じて「どこまでやり切れるか」という課題が出てきます。営業組織においては誰もできないようなファインプレーを繰り返すことよりも、「これをやれば成果が出る」という基本的なことをどれだけ徹底して実行できるかが成功のカギとなります。
そこでステップ5として「モニタリングの仕組みを整える」ことが重要になります。もちろん初期の段階でもある程度のモニタリングは行います。しかし、ここで言う「整える」というのは「モニタリングの完成度を高める」という意味です。
組織がまだ「うまくいっている」という感触をつかめていない段階で管理をしすぎると、組織が疲弊してしまうことがあります。例えば、毎日メンバーに「今日は何件こなしましたか?」「行動の質はどうでしたか?」といった細かいチェックをすると報告業務の負担が増え、メンバーは心身ともに疲弊してしまいます。
そこで、ある程度量と質が向上し、組織全体に「良い感触」が浸透した段階でモニタリングの完成度を高めることが効果的です。
3ヶ月を目安に「7つのステップ」を一通り実施しよう
そして、その次にステップ6として「側面支援のツールを拡充する」という段階に進みます。モニタリングを進めていくと、うまくいっている人とそうでない人がはっきりと見えてきます。順調に行動量を増やし結果に繋がっている人もいれば、やるべきことは理解しているけれどなかなか行動量が増えない、という人もいるかもしれません。そういった時に、行動の量や質を向上させるために側面支援を強化していくことが大切です。
イメージとしては、バーベキューや焚き火で火を起こした際に、火が消えないように炭や薪をくべ続けるようなものです。つまり、「支援を継続的に行うことで、成長の火を消さずに維持していく」ということです。
側面支援のツールを拡充することは、いわゆる「セールスイネーブルメント」と呼ばれるものです。セールスイネーブルメントは現在非常に注目され、多くの企業が取り組んでいます。しかし、いきなりセールスイネーブルメントを導入しようとすると支援にかかるコストが増大してしまう可能性があります。
だからこそ、ある程度モニタリングの仕組みが整った段階で側面支援のツールを拡充することが重要です。それにより、より正確に効果測定をすることができます。これがステップ6に「側面支援のツールを拡充する」が位置付けられる理由です。
ここまで進めば、基本的なツールや仕組みは揃ったと言えるでしょう。そして、最後にステップ7として「『行動』の改善サイクルを回す」ようにしましょう。
この一連のプロセスは30人から300人規模の組織であれば3ヶ月程度で一通り実施できるでしょう。
ただし、これはあくまで目安です。人数が多くても経営陣が現場を把握している企業もあるでしょうし、逆に30人くらいの規模であっても経営陣が現場を充分に把握できていない企業もあるかもしれません。そのため、この規模感と期間はあくまで1つのイメージとして捉えるようにしましょう。