お客様とのやりとりは「具体的なレベル」でしよう
上司が「この案件はいつ決まるの?」と尋ねた際に、部下が「今月中に決まると聞いています」と答えるケースがよくあります。
しかし、このような曖昧な表現は案件が期限内に決まらないことが多く、最終的には失注することも少なくありません。こうした状況を防ぐためには「今月中」や「来週中」という漠然とした表現を避け、「来週金曜日の16時から18時の役員会議で決裁が行われる」といった具体的なタイミングの把握が必要です。
受注の確率を上げるためには「受注決定予定日」と「その日までの段取り」を明確にすることが不可欠です。「提案を出して返事を待つ」「お客様の検討を待つ」といった受け身の姿勢が染み付いていると、スケジュールに関する表現が曖昧になりがちです。このような曖昧さを排除することが、営業組織の強さに直結します。
しかし、日付や段取りを明確にできないメンバーに対して「具体的に決定予定日を書いて」と指導しても、実行に移せないことがあります。その理由としては、以下のようなものがあります。
- お客様に聞くのをためらう
- 聞いてもはぐらかされる
- 段取りが描けない
こうした課題を解決するためには「接戦の決定場面の振り返り」が重要です。
接戦案件とは「やり方次第で受注にも失注にもなりうる案件」のことを指します。例えばコンペや、現場担当者がOKでも稟議のハードルが高い商談などです。これらの案件が決まった際には「どのようなスケジュールで、何が起こっていたのか」をお客様にヒアリングすることが不可欠です。事実を把握することで、どこが受注または失注の分岐点だったのかを特定することができます。
「どのようなスケジュールで、何が起こっていたのか」をお客様にヒアリングするのは、最初は社内の上級者がやりましょう。ゆくゆくはそれを「決定場面のヒアリングスクリプト」にします。そして、決定場面までの出来事を聞いたら、ヒアリングメモと工程表に落として「どこが受注もしくは失注の分岐点だったか」を特定します。
「受注もしくは失注の分岐点」は営業組織にとって非常に重要な情報です。成果が出ない営業はこうした感覚をつかむことができていないことが多いです。多くの営業組織が成功事例の共有を行っていますが、その内容はしばしば「こんなすごい提案をした」という自慢話に終始します。それよりも重要なのは「どのようなスケジュールで、何が起こるものなのか」を組織全体で学習することです。
接戦の決定場面に関する組織学習が進んでいくと「案件が検討・決定されるというのは、裏側でこういう出来事が進むことなのだな」という感覚がチームに共有されます。そこまでいってから受注決定予定日を厳密に管理しないと、皆が「アテ」で日付や段取りを適当に書いてしまいます。
「どのようなスケジュールで、何が起こるものなのか」への理解が深まったところで、今度はメンバーのスキルアップに着手します。
以下についてはトレーニングによって強化することができます。
- どうやって重要情報を聞き出すか?
- どうやって自社のポジションを上げるか?
- どうやって逆算方式で段取りを描くか?
社内稟議や決裁の過程を理解しよう
ここまで述べてきた通り、クロージングの段取りを磨くには具体的な日時をしっかりと確認しておくことが重要ですが、多くの営業は具体的な日時を聞くことを恐れてしまうことがあります。
この「聞けない」という恐れは、お客様に対して詰め寄るように質問することが憚られるという理由からです。例えば、お客様が「今月中に決めます」と言った場合に「具体的にいつですか?」と尋ねると、お客様の機嫌を損ねたり、失礼に思われるのではないかと不安になるのです。
この状況に対してすぐにできる対策としては、お客様が検討するタイミングに合わせて「適切な支援ができます」ということを示すことです。
例えば、お客様が社内の役員会や決済者に判断を仰ぐ際には、ある程度の資料を準備する必要があります。これらの資料を作成することはお客様にとって大きな負担となり、さらに意思決定の場ではさまざまな質問や指摘が飛び交うことが予想され、それらに対応する準備も必要となります。
よく営業は「その場で代わりに説明しましょうか」とか「資料について困ったことがあればいつでも言ってください」と言いますが、実際にはこのような対応が効果的ではない場合があります。というのも、資料が不足していることに気づいていない、あるいは不足を感じていても素直に営業に頼れないお客様が多いからです。その理由は、営業に頼ることで自分の社内評価が下がってしまう可能性があるからです。「自分で説明できないからベンダーに説明を依頼する」という状況は担当者の評価を下げかねません。
したがって、営業が気をつけるべきはお客様の社内評価を下げずに適切な支援を提供することです。そのために最も効果的なのは、お客様がどのような資料を使って社内で稟議や決済を通しているのかを見せていただくことです。
このような情報を得るチャンスは、受注の直後に訪れます。受注直後に「御社のご期待にしっかりお応えしたいので、どのように当社のサービス導入についてご説明されたかを詳しく教えていただけませんか?」と尋ねるのです。この場面では、お客様としてもより良いサービスを受けるために情報を提供したいと思うようになります。意思決定をした後、お客様もその決定によって良いサービスを受けたいと考えるからです。
SFA(営業支援システム)に「決定予定日」を設定する
こうしてお客様がどのように社内で承認を得ているのかを実際の資料で確認すると、「なるほど、こういうプロセスで決まるのか」と理解できるようになります。一度これを経験した営業は逆算方式で営業戦略を考えることができるようになり、例えばお客様が「今月中に決めます」と言ったときでも、「本当にそれで大丈夫かな」と感じ、注意深くなるのです。
お客様に対して「こういった情報がありましたよね」とか「この情報をお送りしましょうか」と言えるのは、過去にお客様が意思決定を行う際の現場についての詳細な情報や資料を見ているからです。このような情報を社内で共有することで、タイムリーにお客様の意思決定を支援することが可能になります。
さらに、社内で注視すべき点は「今月中に決まります」や「今週中に返事をもらいます」といった曖昧な状態で、実際にはお客様の最終的な行動が確認できていないのにもかかわらずクロージングに進んでしまっている商談です。このような場合、「決定予定日がわかるダッシュボードを作ること」を推奨します。詳しくは弊社代表高橋の著書『無敗営業 チーム戦略 オンラインとリアル ハイブリッドで勝つ』(日経BP)でご紹介しています。
例えば弊社ではSFA(Sales Force Automation:営業支援システム)において「決定予定日」が月末になっている商談をピックアップするダッシュボードがあります。
「決定予定日」が月末に設定されている商談というのは、最初にその案件を登録する際に取り急ぎ月末を設定しておき、その後に適切なフォローや確認が行われずに放置されている可能性が高いです。
そのため、こうした不確実な状態の案件に対しては油断せずにお客様としっかりとコミュニケーションを取り続けることが重要です。
「仕組み」で高い営業成果を上げる組織を作ろう
また、社内では経営者やマネージャー、リーダーがチームメンバーに対して突っ込んで質問するのを避けてしまうこともあるかもしれません。例えば、「これっていつ決まるの?」と聞いたときに、「今月中に決まります」と答えられた場合、「今月中って具体的にいつですか?」とさらに質問すると、「私を信用していないんですか?」とか「お客様から確実に返事をもらえると言っているんですよ」といった反発を招いてしまうことがあるということです。
しかし、メンバーに対する突っ込みが甘いと緩いクロージングをなくすことは難しくなります。これは組織文化に関わる問題であり、詳細まで詰めてゆく文化をどう醸成させてゆくかが経営者やマネジャー、リーダーの腕の見せどころです。
そのような文化を浸透させる方法として、上述のように弊社ではSFAの記載項目に具体的な日付を必ず記入するようにしています。このようにルールやオペレーションに組み込むことで、曖昧さを排除するようにしています。
実際、高い成果を上げている営業は以下のような項目を具体的な情報として押さえることができています。
- その案件の受注・失注が決定されるのは何月何日か
- そのために意思決定者やキーパーソンとコミュニケーションをとるのは何月何日か
- そのキーパーソンが資料を確定させるのは何月何日か
- その資料を確定するために自社と相談するのは何月何日か
弊社ではこのように高い成果を上げている営業が当然のように確認している項目をデフォルトでチェックする仕組みを導入しています。さらに、これらの項目がうまく埋まらない場合、それを見逃さずにフォローやトレーニングを実施する場を設けています。
ただ「これをやりなさい」と言うだけでは、スキルの問題で実行できない人も現実にはいます。そのため、組織全体で仕組みとして皆ができるようにすることが重要です。