今回のテーマは「競合がいるわけではないのに受注率が落ちている場合、どう考えるべきか?」ということです。
営業の方と話をしていて、時々「うち競合いないことが多いんですよ」とか「競合とのコンペは普通に勝てるんですよ」といった表現をされる方がいらっしゃいます。 競合がいるときはコンペや相見積もり、競合がいないときは一社提案になるわけですが、一社提案で受注率が落ちているときどういうふうに考えるべきでしょうか。
「保留」や「内製」は他社より手ごわい競合
一社提案のとき、お客様が迷う候補・選択肢として「保留」や「内製」があります。 保留・内製は、ある意味で競合他社よりも手ごわい相手です。
競合がいない案件で受注率が上がらないケースは、競合がいない場合に「何と戦うのか」がよく見えていないことが多いのではないか、と私は考えています。
保留が競合相手なら、未来に話を移す
まずは「保留」という選択肢と対比してみましょう。
下の図に「先延ばしにしてもいいはずなのに、なぜ今なのか?」という問いがあります。これは営業の立場ではなく、お客様の立場で考えています。迷っている人の頭の中にアクセスするというのはすごく重要です。迷っている人の即決ができない理由、迷っている対象を掴んで対策を立てる必要があるからです。
ステップ1で、まずA(自社の提案)とB(保留)で対立構造を書き出します。
次にステップ2では、ポジネガを洗い出していきます。真ん中の2つ「A採用のネガ材料」と「B採用のポジ材料」の下にもう一段ありますが、これは真ん中の2つに関する対策です。 特に、B採用のポジ材料「本当に必要かどうかを見極めた上で判断できる」というのは手ごわいもの。 人間は「現状維持バイアス」がすごく強いからです。
一社提案で「保留」という競合相手に勝って選んでいただこうとするとき、この現状維持バイアスを踏まえて「待つ」という選択肢に対して大きなアドバンテージを出せるかどうかが大事であるかのように思えます。 しかし冷静に考えると、人間は変化を嫌う生き物なのでそんなに大きなアドバンテージは出しづらい。
そこで私のおすすめは「とにかく未来に話を移す」ことです。 未来についてどれだけお客様と共有できるかがポイントです。 それに対して「今でも困ってないですよ」と言われてしまったとき、「だったら困る前に、今のうちにやっておいた方がいいですよね」「余裕があるうちにやっておきましょう」という流れに持っていけるかどうか、ということです。
「今必要かどうか」という観点で訴求してしまうと難しい。 保留という競合相手については、とにかく「現状維持バイアス」がすごく強いということを押さえておく必要があります。
内製が競合相手なら、潜在的なリスクを顕在化する
今度は「内製」について考えてみます。
内製について最も手ごわいところは、B採用のポジ材料である「コストがかからない」という点です。 要は「タダである」という理由ですね。
ビジネス感覚のある方からすると「やっぱりそれにもコストがかかるよ」という話になると思うのですが、「お金がかからない」というのは強力な対案です。 そこで、何かが無駄になってしまうとか何かをロスしてしまうという潜在的なリスクを顕在化する、というのがポイントになります。
人間は、心理的にプラスよりもマイナスのほうに反応します。 「もしかしたら損するかもしれない」といったことの方が認識しやすいのです。 しかし、ただお客様を脅したり、下手に不安を煽ったりするべきではないので、お客様にとってのリスクに詳しくなることが必要です。
内製という競合相手に関しては、それによって失われるものやリスクを正確に議論できるようにしましょう。
担当者をしっかり味方につける
コンペにおいては「他社」という具体的な比較対象が見えているので戦いやすいのですが、保留や内製となると抽象概念の世界になり、明確に「今、自社の提案を採用することが必要だ」というロジックが立てにくく、難しい戦いになります。
特にBtoBの稟議系の案件で、間接的に社内の稟議を通していく際に「なんで必要なの」とか「保留でいいじゃん」「内製でいいじゃん」と言われてしまったときに、担当者の方に戦っていただけるかどうかがカギを握りますので、目の前の方をしっかり味方につけられるかが重要です。
商談で担当の方が「私はいいと思いますけど、多分部長はこういうのダメって言うんですよね」などとフィフティフィフティぐらいの感じだと、稟議はだいたい通りません。少なくともお客様の担当者が「営業の◯◯さんに迷惑かけないようにしっかり稟議通しますから」くらいの言葉をいただけるように巻き込んでいく必要があります。
ただそのときにはしっかり筋道立てられたロジックとして、保留や内製の強力なB案のポジへの対策を用意することが重要です。 また相手の組織のなかには感度とかアンテナが鋭い方とそうでない方がいるので、なるべく感度の高い方から順番に味方につけていくとうまくいくことが多いと思います。
ということで今回は、競合がいないはずなのに受注率が落ちている場合、「保留」や「内製」といった手ごわい相手の「B案のポジ」に対してしっかりとした根拠や筋道を作って対策を立てるべし、ということをお話しました。