「採用すべきだ」と感じる瞬間をつくる
今回は「説得力を上げるための7つの引き出し」についてお伝えします。
営業の提案に「御社の課題は●●と伺っております。その課題を解決するために、●●をご提案します」というロジックは多いでしょう。しかしこれだけでは説得力に欠けます。
以下は「説得力を上げるための7つの引き出し」です。
①要件整理
まずは『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』(日経BP)でお馴染みの要件整理です。
お客様のご要望やお悩みをキーワード化し、「網羅感」「具体化」「優先順位」の3つの観点からすり合わせます。そして、今回の提案がフィットしていることをブレイクダウンして伝えます。このやり方は再現性も高く、トレーニングで身につけやすいでしょう。
②費用対効果
お客様は「他社に比べた安さ」よりも「費用対効果の納得感」に反応します。これは、定量的に算出することもあれば、定性的に表現できることもあります(例:人を一人雇うのに比べたら安上がり)。 ポイントは「どんなものの見方で考えて頂きたいか」を、営業側からしっかりと提示することです。
③なぜ今なのか
「タイミングを捉えることのメリット」「今の時期を逃すことによる機会損失」「なるべく早くから始めることのメリット」のいずれかの観点からタイミングについてお話します。 お客様の事業や組織について深く情報を仕入れておかないとピントがずれてしまいます。営業都合にならないよう注意が必要です。
④なぜ当社なのか
他社と比べた優位性、強み、差別化を伝えます。これは自社側の目線ではなく、過去の「接戦コンペで受注したときのお客様の台詞」から持ってくることが重要です。 「他社と悩んだ末に、自社を選んだ」お客様は、他社との違いをどのように感じられていたのでしょうか。ヒアリングし、未来の提案に活かしていきましょう。
⑤理念やビジョンとの一致
お客様の経営理念やビジョンなど、抽象的な言葉の裏側には、経営者の濃厚な「想い」が詰まっています。それをしっかりと汲み取り、お客様が経営理念やビジョンを実現するための手段として、自社の提案が相応しいのだということを、想いへの共感だけでなく、ロジカルに示しましょう。
⑥数多くの選択肢から吟味
伺ったニーズや課題に対して、どうしたらそれを解決できるのか、いくつもの選択肢を検討しましょう。多岐にわたるアイデアを広く出し、とことん考え尽くした結果、「●●という理由でこの提案がベストだと思います」とお客様に伝えましょう。
⑦なぜ御社か
世の中に企業(お客様候補)は無数に存在します。お役に立てるタイプのお客様もいれば、お役に立つのが難しいお客様もいます。だからこそ、お客様には、いかに自社が貢献できるかを、ロジカルに、情熱をもって伝えましょう。
勝ちパターンの再現性を上げる
説得力を上げるための引き出し(おさらい)
- ①要件整理
- ②費用対効果
- ③なぜ今なのか
- ④なぜ当社なのか
- ⑤理念やビジョンとの一致
- ⑥数多くの選択肢から吟味
- ⑦なぜ御社か
7つのうちの1つと言わず、全てをそろえて、ベストな提案をお客様にぶつけましょう。 そして、営業マネジャーは、これらの引き出しを備え、メンバーを案件指導できるようになることが望ましいでしょう。
営業マネジャーがメンバーの案件レビューをする際、提案書に対して自分の感覚だけで赤ペンを入れるのは危険です。 勝ちパターンの再現性を上げていくためには、「お客様がこの提案を採用しない可能性」をしっかり考え、そうならないための対策を考えましょう。これによって防げる失注は山ほどあります。
ここで気を付けたいのは、単に「御社にはこういう課題がありますよね。弊社はこういうふうに課題を解決できますよ」というだけでは、足りないということです。
特に、相手が腹落ちする理由については、自分でコントロールし辛い部分があるでしょう。例えば、営業の世界でよく言われる「まさに今やるべきタイミングですよ」「まさに今動くべきタイミングですよ」といった提案がありますね。
なぜ今なのかをお客様に認識していただくためには、営業側がしっかりと提案をする必要があります。ただ、お客様が心を動かす理由については、コントロールできない「相手の心の中での出来事」によることもあるでしょう。どんなに頑張って自分の作った理由で買っていただきたいと思っても、お客様の心が動かないこともあるのです。
認知的不協和を引き起こさないために
しかし、ここで諦めるのではなく、お客様に考える材料をしっかりと提示することが重要です。弊社はこのような場合に、認知的不協和の考え方を使うことがあります。認知的不協和とは、矛盾した認知によってモヤモヤしている状態のことを指します。例えば、ダイエットしようと思って食べ物を我慢しようとしている一方で、目の前に食べ物があったら食べたい、という状態です。
このような認知的不協和が起こっている状態を解消するために、提案の際には相手に共感を持ってもらえるような理由や材料を用意することが大切でしょう。
人間はこのモヤモヤに対してはいつまでも耐えられないという性質があります。だからこそ、最終的な結論を出し、行動に移すのです。典型的な例として、「ダイエットは明日から」という考え方があります。「ダイエットは明日から」では、目の前に誘惑があって負けそうになっても、ダイエットを諦めるわけではないという意思を持ちつつ、同時に現在の誘惑も楽しむことができます。こうすると、いいとこ取りができるのです。
そして、そのいいとこ取りを実現するためには、提案をする側がお客様が最終的に納得する理由について考えることが重要なのです。そのためには、『無敗営業 「3つの質問」と「4つの力」』などにも書きましたが、「お客様の心がいつ動いたのか」を尋ねることが必要です。そこで、自分の想像とはギャップがあったことに気付くことがあるでしょう。多くの場合、お客様の心は提案をする側が思っているよりも手前で決まっています。
「一生懸命メモをとる姿勢」で受注が決まった
具体例を上げましょう。弊社代表の高橋があるベンチャー企業の社長さんに対して組織作りの提案をしたときのことです。社長さんのもとには他の会社も似たような提案をしにやってきていて、社長さんに対して駄目出しをする人たちもいました。しかし、社長さんは自分の会社を大事に育ててきたので、知らない人からいきなり駄目出しをされるのは腹立たしいと感じていました。
そんな状況の中、高橋が一生懸命メモを取っていたのですが、その姿を見て社長さんが感心し、その場面が決定的な瞬間となったのです。つまり、提案を出す前に決めていただいたということです。
評価の仕方については、いくつかの側面があると考えます。
まず1つ目は、お客様が個人的に自分の中でどう受け止めるか、つまり個人的な理由です。
2つ目は、提案を採用する会社内での評価です。自社の社員にどのような理由で通すかという点が含まれます。
3つ目は、提案を採用する会社に対して伝える理由です。どのような理由で提案を採用したいのかを提案を採用する側の企業は提案をする側の企業に伝えます。
そして4つ目は、特にコンペや相見積もりでの比較の場合、断る会社に対して伝える理由です。その会社に対して、今回は他社を選んだ理由を丁寧に伝える必要があります。
これら4つの側面は、一緒くたにしてしまいがちですが、冷静に考えるとそれぞれ独立しています。したがって、それぞれの場面に合わせて適切な理由の付け方が必要になるでしょう。
なぜお客様の「個人的な理由」が大切なのか
ここからは、お客様の「個人的な理由」を押さえるポイントについてお伝えします。弊社代表の高橋も、20代の頃に個人的な理由で採用されたことが多かったといいます。一番多かった答えは、「高橋さんと一緒に仕事すると成長できそうだから」というものだったようです。
高橋が大手企業に営業していた当時、お客様が突然やってきた若者(高橋)に対して少し変わった印象を持たれることがありました。しかし、そうした印象が逆に、「一緒に仕事をするとキャリアや個人的な成長が見込める」と感じていただけたのです。
気を付けたいのが、このような場合、社内での説明が難しくなるということです。例えば「高橋さんと仕事を一緒にすると成長できそうなので、稟議を通してください」とはなかなか口に出しにくいものです。そのため、社内での説明では違った言い回しが使われることが一般的です。注目すべきは、大企業とスタートアップやベンチャー企業では通り方が異なることです。組織の規模によって、社内での評価や通し方に違いが現れることがあります。
会社の課題に対するフィット感は重要ですが、お金を使う場合には他の選択肢と比較して、なぜその会社が優れているのか、なぜ今実行する必要があるのかについての説得力が欠かせません。相手に突っ込まれたらそこで話が途切れてしまいます。これが相手の組織内で提案を通す際に必要な要素です。
「完全にコントロールできないところ」を楽しもう
営業の面白さは、完全にコントロールできないところにあります。それを「決定場面を問う質問」によって探っていくことで、お客様の心が動いた瞬間や納得した理由を知ることができます。
さらに、どのようにして提案が通ったのかや、他社をどのように断ったのかも重要なポイントです。受注した場合には、少なくともそれらを聞いておきたいところですし、失注した場合でも、何が足りなかったのかをしっかりと把握しておくことが大切です。